戦いの火蓋新学期を迎えると学生は体育祭の準備にはいる。 ヒカリ達が通うお台場中学も体育祭に向けて盛り上がりを見せている。 お台場中学はクラス縦割りのクラスマッチ風にチームを分ける。 赤、白、黄、青、緑の5組みに分かれて点を競う。 なぜか戦い事になると燃え上がるのが若者達の運命だ。 特に上級生は中学生最後の体育祭、受験勉強の息抜きにもなるため盛り上がる。 昼休みヒカリは自主訓練に励んだり応援用のディスプレイを作る生徒達を微笑ましく思いながら見ている。 ヒカリは体育祭が憂鬱になるタイプではない。 退屈な授業がなく、体育祭への練習への時間が増えるのは単純に楽しい。 ただ、得意な競技や飛び抜けて上手い競技もないので、団体競技に出る事になっている。 やや気楽に体育祭が訪れるのを待っているのだ。 「良い天気ね。このまま体育祭まで続くと良いね。」 「良くなければいい‥。」 どんよりとした顔でヒカリの親友久美は呟く。 「く、久美ちゃん。」 余りに悲壮そうな表情の久美にヒカリはタコウインナーを落としそうになった。 久美の弁当の中身はほとんど減っていない。 「雨が降れば延期か上手く行けば中止とか。うん。」 そう、個人競技。100m競争、リレーなどはヒカリ達白組は体力テストの結果から選ばれた。 久美はなんと学年で100m走が一位だった。 白組3年は見のがさない。 嫌がる久美を説得して今日にいたる。 リレーの選手に選ばれたからだ。 実は一学期、久美は陸上部から熱意をもって入部に誘われていたが、テニス部に憧れていたため断り続けた。 その嵐が去ったと思えば次の嵐が待っていたというわけだ。 「うう、憂鬱だ。なんで私が。その時調子が良かっただけだと思うけどなぁ。」 「久美ちゃん、いつも短距離早いモン。凄いね。」 「うっうっ。」 「ほら、しっかり食べないと。放課後の練習の時バテちゃうよ?」 「そうそう、白組の希望だからなー。がんばれよー。」 ちょうど後ろを通りかかった大輔がからかう。 「煩いわね!あんただって人の事いえるの?!」 久美は立ち上がり大輔を睨む。 「そういえば大輔君、100m走の選手なんだよね?」 ヒカリが首を傾げながら言う。 「へっへっ。がんばるからね。ヒカリちゃん。でもさ重みが違うだろ。」 「え?」 「100mは一位が5点、二位が4点‥。て割り当てられるけどリレーはその3倍だから。」 「そうなの?」 大輔は得意そうに言う。 「で早いチームごとにその10倍の点数がもらえるんだ。」 つまり、選手ごとに15点から3点がついて別にチームごとに最終的な順位で一位は150点。 一つの組みが統べて一位を取ればリレーだけで総合は300点近く点を稼げる。 ヒカリはそう考えて感心してみせた。 「で、リレーは最終種目。全員が期待するなか行われる競技だから。」 「きーっ。あんた私の胃に穴を開けたいの?!」 久美は大輔の首を絞めようかと手をのばし、さすがにヒカリが立ち上がり止める。 「久美ちゃん、落ち着いて。落ち着いて。」 「大輔、あまりいじめるの止めろ。」 大輔に声をかけた男子生徒はため息をついて紙袋を大輔の頭の上に置く。 中は昼食のパンか。 「友也‥。」 「森田もあまりプレッシャー抱え込まなくていいって。どうせ盛り上がるのも少しの事だからな。たかが賞状一枚だ。手に入れるのは皆の力でないと嬉しくないだろ?」 久美一人ががんばる必要はない。でなければ不公平だし、一人の努力だけで手に入れたもの、誰も感慨を持たない。 「う、うん。」 「ま、そうだけどな。」 久美はかくかくとうなずき、大輔も気をそらされて笑い友也がのせた袋を取り除く。 「それより早く行かないと団長きれるぞ。」 「あ、そうだった。」 友也は大輔と同じサッカー部で一緒にいる事が多い。 各組には応援団が作られ体育祭を盛り上げる。 白組は団長がサッカー部に所属していて大輔達も強制的に団員になっていた。 といってもお祭り好きな大輔に文句は無さそうだ。 昼休みや放課後たのしそうに走り回る姿をヒカリも見ていた。 「応援合戦の案出来上がった?」 無邪気に聞くヒカリに大輔は頷く。 「ほぼ完成。盛り上げるから楽しみにしていてね。」 「うん。楽しみだね。」 体育祭で各組が応援合戦をする。それを教師たちが見て採点してくれるのだ。 リレーに続く点数の高さから各組とも応援合戦にも気合いが入るのだ。 じゃあ、と大輔は大きな弁当の包みを掴むと出ていく。友也もそれを追った。 友也は一度振り返ると久美に笑いかけ「とにかく気楽にな。」といい、出ていく。 応援団員は昼休みは団員で話し合いをしながら昼食をしているのだ。 なかなか忙しい。 そんな姿を微笑ましく見送り、ヒカリはふと久美の方を見る。 久美は頬を染めて純粋に喜んでいる。 「うん、そうよね。気楽に気楽に。」 そう言うと座り弁当を食べはじめた。 ヒカリは単純な久美に呆れたがその久美が無邪気に食べないの?と聞いてきたので突っ込むのも無意味に思えて食事を再開するのだった。 「じゃーんけーん。」 生徒達が見守る中。 「ぽん!」 「うおーっ。」 大輔が頭を抱えその前にいるタケルが微笑む。 白組に当たるクラスの生徒達は嘆いたりぶーぶー言ったりして、ヒカリはため息をついた。 体育祭を5日後に控えた日。 昼から授業はなく応援合戦の練習に当てられていた。 しかしなぜだか練習場所が手違いで白と黄色の組が一緒になった。 裏庭と校庭。 校庭は校舎から丸見えで、他の組や教師から見られる事になる。 どちらも裏庭を取りたい。 応援団長がふたり顔をあわせ自分達の場所だと主張してキリがない。 黄組団長(なんと光子郎)が、代表にじゃんけんさせて決めようといい、白組の団長も同意した。 そして白組団長はなぜか大輔にその代表に押した。 多分プレッシャー知らずだからだろう。 見守りながらヒカリは思う。 ふとヒカリが相手側の団長、光子郎をみると彼は何か企むように笑う。 手招きされた黄組代表はタケルだった。 がんばるぞーとはしゃいでいた大輔が固まる。 大輔は勝負事でタケルに勝つ事はない。 そしてそのとおりになったと言うわけだ。 「一発勝負ということでこれで決定ですね。」 そうして爽やかに光子郎を先頭に黄組は練習に入り、白組は悔しい思いをしながら校庭に向かう。 団員達が大輔の頭を軽く叩いて責めていて気の毒にヒカリは思う。 あれは戦う相手が悪かったという所だろう。 黄組はあまりずば抜けて個人競技を得意とする生徒が少ないらしく団体戦や応援合戦に力が入っているためか、気迫にまけてしまったようだ。 取りあえず練習にはいる。 団員が中心で進め生徒達はそれに従い練習をする。 なかなか楽しそうでヒカリは体育祭で実際にするのが楽しみになった。 団員が前で自分達で考えた応援をして他の生徒達が人文字を作り盛り上げる。 なかなか応援団員の演習はポーズが決まっていてカッコイイ。 ヒカリは楽しそうにポーズを取る大輔を見ながら微笑む。 体育祭まで慌ただしいだけど楽しい日々が続いていった。 続く 2へ 長くなりそうなのでこの辺で分けてみました。2へごー。 電脳に戻る |