戦いの火蓋2昼から体育祭に向け自由時間になっている。 応援の準備をするものもあれば競技の練習をするものもあり。 吹奏楽部が体育祭に向け演奏曲を練習しているのを遠くに聞きながらヒカリ達は団扇を作っている。 白組は団扇をもって応援する事になっている。 白組全員の団扇を一年の女子が製作することになっていた。 女の子どうし他愛のない話をするヒカリにうわさはなしが飛び込んでくる。 窓から見えるグラウンドで大輔たちが100mの練習をしている。 「そういえば、知ってる?応援団のこと。」 「なに?」 「最後の対抗リレーで各組の応援団が応援するらしいのよ。」 「ふんふん。」 「代々選手の恋人か、想い人が応援するんだって。」 「へぇ。」 「いいわね。好きな人に応援してもらうって。」 「告白の意味も兼ねていたり。」 「ロマンチック〜。」 「そういえば久美ちゃんの応援を本宮がするって噂があるんだけど。」 「えー。そうなの?」 「そういえば最近よく話しているもんね、あの二人。仲良くない?」 そこまで話して女子達はハッとなる。 ヒカリは視線を感じて困ってしまった。 「えっと、まあ噂だし。噂。八神さん気にしないでね。」 周りの女子達がフォローなのか笑ってそうそうと頷く。 ヒカリは肩を竦めて同じように頷くしかなかった。 気まずくなった場に教師が入ってきてヒカリに用事があると声をかける。 ヒカリが背を向けて出ていくと、後ろでほっとした気配がした。 職員室で用事を終えて廊下に出る。面した窓から校庭が見える。 大輔が100mの練習が終わったのか友人とじゃれている。 複雑な思いでその大輔をみていると。 「あ、ヒカリ。こんなところでどうしたの?」 久美が目の前に立っていた。 「先生に呼ばれていて。今終わったとこ。久美ちゃんも練習終わったの?」 「うん。なんだか、皆息巻いてていやあねぇ。」 久美はうんざりしたように言う。 ヒカリは苦笑して答えてみた。 教室に向かう道。 久美は呑気にどの先輩が厳しいだの練習がどうだの話している。 ヒカリは相づちを打つしかない。 「ヒカリ?どうしたの?」 ヒカリが元気ない事を察して久美が聞いてくる。 「別に‥‥。」 「その顔のどこが別によ。暗いんだけど?」 「‥‥‥‥‥。」 ヒカリが止まり久美も足を止めた。 「あのね、あのね。」 「うん。」 久美が真剣に聞こうとしてくれるのが分かる。 「大輔君、久美ちゃんのこと好きかも知れない。」 「はあああああ?!」 緊張して一気にいったのに久美の気がぬけそうな反応を返してびっくりしてしまった。 しかも久美は笑いだした。 「く、久美ちゃん‥。」 「それはない。絶対ない。天地がひっくり返ってもない。」 「私は真面目にいっているの。」 「ヒカリ‥。」 久美の反応にむきになって返すと久美は笑いを止めた。 「なんでそうなっちゃったの?」 大輔の今までの態度はヒカリ一直線だったから。 ヒカリもちょっと安心していたのだ。 ヒカリは噂の事を話す。 久美は頷いて聞いていたがすぐに呆れてみせた。 「私その噂初めて聞いたわ。ねぇヒカリ。その噂すべての生徒に成り立つと思う?」 「え?」 「だって、うちのシステムだとカップルが敵同士ってこともあり得るじゃない。」 「まあ、そうだけど。」 「あくまで噂でしょ?噂。本宮がもしリレーの応援をするならただの穴埋めじゃないの?」 「そうかなぁ。」 「そうだよぉ。ああ、吃驚した。」 さあ、行こうといわれヒカリは久美と教室に向かう。 ヒカリは不安を覚えながらも久美を追うべく歩き出した。 体育祭当日。 生徒達の日頃の行いが良いのか見事な晴天。 お台場中学ではプログラム通り各競技が進行していった。 「ひかりちゃーん。」 聞き覚えのある馴染みの声に振り返ると大輔が走ってくる。 「わ、かっこいいね。」 ヒカリは素直に感想を言う。 大輔は応援団らしくガクランを着ている。 白組らしく白いガクランだ。 「大輔君これ。」 「ああ、賢に借りたんだ。汚すな、傷つけるなって言われたよ。信用ねぇなぁ。」 体育祭の応援団として着るとなれば当然だろうと思いつつもヒカリは笑って頷いてみせた。 どうやら白組応援団員は賢の学校の生徒何人かから借り受けたようだ。 「ぷっ。凄い違和感。普段だったら絶対袖をとおす事もないモンね。」 京がからかい、大輔は膨れてうるせえといい周りの笑いを誘っている。 ちなみに京は赤組である。 昼前に応援合戦は盛り上がり白組は高得点を取る事が出来た。 残念ながら黄組にはまけてしまったが。 昼休み、ヒカリは木陰を探して久美と食事をしようと歩いていると太一が声をかける。 「ヒカリ、こっちだ。」 ヒカリは唖然とする。 中学ともなると保護者が見に来る事は少ない。 日陰のいい場所をちゃっかりキープし、座り込んでヒカリを手招きする。 目立つ事このうえない。 少しはずかしかったが太一に呼ばれて逃げるわけにはいかず久美も誘ってその場に入る。 大輔を始め選ばれし子供達が集まっていた。 ヤマトと空が差し入れでそれぞれ弁当を作っていて広げている。 腕が良い事を自負する二人だけに豪華な食事となった。 好きなものをつまみながら話に花が咲く。 「毎年ながら盛り上がっているみたいだな。」 チキンの唐揚げを食べながら太一。 「そうですね、毎年ながら生徒にすべてまかされていて自主的にやってますよ。」 巻き寿司をつまみながら光子郎。 「それで問題もないわけだから生徒会長の働きがいいのね。」 空が光子郎を褒めちぎる。 「いや、そんな。」 「盛り上がるとしたら対抗リレーだろうなぁ。」 のほほんとヤマト。お茶をすすっている。 「タケル君や大輔はリレーに出るの?」 無邪気に聞く空。全員に声をかけおかずが行き渡るように気を配っている。 「まさか、無理ですよ。」 ウインナーを食べながらタケル。太一はぱたぱたと手を振る。 「まあ、タケルは長距離向きだし大輔は短距離向けだからな。リレーは駄目だろう。」 大輔はおかずを口に詰め込んで食べていたが話を振られてごくんと飲み込む。 「すいませんね。」 お台場中の対抗リレー。女子は従来どおり一人半周の割り当てだが男子は一人トラック二周になる。 タケルや大輔は得意とする競技ではいい成績だが、リレーはどちらにも不向きで声がかからなかったのだ。 「そういえばタケル君、体育祭実行委員なのね。」 京がタケルの腕の腕章を指していう。 生徒が主体となって運営される体育祭。 生徒たちから何人か公平にすすめられるように実行委員が選ばれ中心になって行われる。 「そうなの。大変よね。」 微笑む空にタケルははにかんでみせる。 「にっこり笑って自分の組だけ点を上乗せしそうだ。」 ぼそりという大輔にタケルが笑いながら素早く肘で大輔の鳩尾をどつき大輔は咳き込む。 にらみ合う二人に空は笑っている。 まったく何かの宴会のようだ。 生徒が何事かとまじまじみて通り過ぎていく。 OBの太一たちを懐かしがって教員も顔をのぞかせそこでまたわいやいとにぎやかになる。 ヒカリなどは気になるがほかのメンバーは平然としている。 久美は隣で目をしろくろさせていた。 久美の弁当箱には差し入れのおかずが盛り上げられていたり。 「騒がしくてごめんね。」 こっそりいうと久美は笑う。 「なんで?にぎやかでいいじゃない。」 「そう?」 そういえばと大輔が久美に話を振る。 「森田はリレーの選手だよなぁ。」 「お、そうかすげえな。」 「そうなの?がんばってね。」 メンバーにそれぞれ声をかけられて久美は愛想笑いを返しながらうなずいていた。 「応援も盛り上がるかな。」 「ええ。‥もう一つの意味でも盛り上がりそうですよ。」 「ははは。はじめたのは太一だからな。」 「ヤマト!」 学校の雰囲気を全て把握している光子郎が意味深に答えヤマトが笑ってからかう。 太一は照れていた。 ヒカリには体育祭前に女子の間で盛り上がったあの噂だと分かった。 「あの噂広げたのお兄ちゃんだったの?」 「いや、広げたというかそうなったというか。」 噂の出たところが太一だったとはよけいにヒカリは笑えない。 「噂ってなんだぁ?」 大輔が蚊帳の外という感じで聞いてくる。 「大輔君しらないの?リレー対抗での応援団のこと。」 「うん。」 ヒカリが噂のことを話す。顔色を見ながら。 しかし大輔はたいして表情を変えずそんな噂があったのか、と聞いていた。 「俺がリレーの選手で太一が応援してくれたんだよなぁ。凛々しかったぜ。」 「あのときはだた一生懸命で。」 ヤマトが嬉しそうに話し太一は照れている。 「それからカップルが応援することになったんですよねぇ。去年もその前も。」 光子郎がしみじみという。 「へえ、ヒカリのお兄ちゃんが作ったんだ。え。あれ?ヒカリのお兄ちゃんが高石君のお兄ちゃんを応援???」 「あーーそうそう。そういえば、担任の太田がさぁ!!」 「リレーの後、皆の前で腹踊りしたんだよなぁ。なぜか。きっと酒入ってたぜ。あれ。」 「へえ、あの原田先生がねぇ。」 久美が感心していたがふと別のことに気が付きそうになり皆があわてて別の話を振り久美の意識がそこからそれる。 ヒカリはそんな場面を見ながら微笑した。 そんな感じで長いようで短い休み時間が過ぎていく。 昼からの競技も順調に進み、ヒカリが参加する騎馬戦がやってきた。 残すはこの騎馬戦と対抗リレーだ。 これは一年から三年までの女子が一緒になって行う。 ヒカリは騎馬といっても台の役なので気楽なものだ。 各組がにらみ合いはちまきを奪っていく。 ヒカリの騎馬がはちまきの取り合いで一度グラリと傾く。 台のヒカリたちは踏んばり崩れず相手のはちまきも奪うことができた。 しかしヒカリは足をひねったようだ。 はじめは痛みもそんなに気にならなかったがだんだんその痛みが強くなる。 ヒカリは唇を噛む。 冷や汗をかきはじめた。 なんとか我慢していたら終わりの合図がした。 騎馬を解いたとたんヒカリは息をはいてそのまま座り込んでしまった。 「八神さん?」 「ヒカリ?どうしたの?」 周りの女子が寄ってくる。 「足ひねっちゃって。」 「ええっ。大丈夫?」 おろおろする女子をかき分け大輔が走りよってきた。 「ヒカリちゃん、どうかした?」 周りの女子が足をひねってしまったことをいうと慌ててヒカリの前に屈む。 「腫れてる。保健室行こう!」 大輔は抵抗もなくヒカリを抱え上げて保健室へ向かう。 「だ!」 周りが騒いだりからかったりする中ヒカリは赤くなり声も出せなかった。 しかし大輔は気が付きもぜずずんずんとヒカリを運んでいく。 遠くでは太一が苦笑し、ため息をついていた。 隣でヤマトが笑い太一の頭を引き寄せていたり。 そんなことも知らずヒカリは大輔に運ばれ保健室に行く。 「あらあらいらっしゃい。すごい入場ね。」 保健医が二人を頭の先からつま先までみて笑う。 そこで大輔は気が付いて赤くなる。 「ごめん、無我夢中で。」 単純一直線の大輔らしい。 ヒカリは大輔に降ろされながら笑う。 「ううん。いいの。心配してくれてありがとう。」 ここでヒカリも冷静になれた。 退屈していたのか保健医は歓迎してくれた。 どうやら体育祭に珍しく閑古鳥状態らしい。 最近の子は上品だからけがも少なくてと笑いながら手当をしてくれる。 久美が聞き付けたのか保健室にやってきた。 「大丈夫?ヒカリ!」 「久美ちゃん。大丈夫だよ。」 手当が終わりヒカリは心配そうな久美に笑ってみせた。 そこへ対抗リレーが始まるというアナウンスが入る。 「ほらほら、選手は行かなきゃ。」 ヒカリが笑って手を振り久美は安心したように出ていく。 「楽しみにしていたのよね。私も見にいこう。」 うきうきと保健医も保健室を出ていく。 「大輔君もいかなきゃ。」 大輔は昼の体操服姿と違いまた応援団員の姿になっている。 長いハチマキと長い上着。多分リレーの応援のための服だろう。 しかし大輔は首を傾げる。 「なんで?ヒカリちゃんがケガしたっていうのに。」 「でも応援。」 ぱーんとスタートの合図と生徒たちの声援が聞こえる。 「ああ、でもどうせ俺はおまけだからいてもいなくてもいいんだよ。」 「え?」 大輔が指差す先で友也が応援している姿が見える。 リレー対抗の応援団はトラックの内側で応援する。 やや真剣な友也の表情が遠くから伺える。 久美も友也が応援していることに気が付いて一瞬ビックリしたようだ。 しかし自分の順番がきて表情を引き締めてコースに出た。 一年の久美にバトンが渡り走る。 やっぱり久美は早いななどと思いヒカリは感心してみる。 久美は一番でバトンを渡すことができた。 コースからトラックの内側に入った久美はほっとしたように座り込む。 競技は進み白組が一番にゴールをくぐった。 白組の陣地から喜びの表現として、団扇やはちまきが空に向かってたくさん投げられている。 久美はプレッシャーからの解放で気が抜けたのかまだ座り込んだままだ。 そこに友也がやってきて何か話しかけて二人で赤くなっている。 「おー。」 「うまく行った感じね。よかったね、久美ちゃん。」 男子の部が始まるので二人はグランドから離れるが周りが冷やかしで騒いでいるのでそうなのだろう。 「なんであいつが積極的に対抗リレーの応援に立候補したかやっと分かったよ。ったく。おれも巻き込まれるし。」 「そうだったんだ。」 感心して始まった男子のリレーを見ているヒカリを大輔がふと見る。 「ちょっとは心配した?」 聞いた大輔にヒカリは顔を向ける。 「え、別に。」 いつもの癖でそう答えてしまいあっとおもったがもう遅い。 大輔がとほほんと肩を落としている。 気恥ずかしさも手伝い修正できそうになかった。 「あっ。男子も決まったみたい。」 大輔の袖を引っ張りいうと大輔が顔をあげる。 男子の部も白組が一位をとり再び団扇が空を舞う。 「おー。やったな。」 「なんだかすごい騒ぎね。」 久美をはじめ皆で頑張った成果があったというわけだ。 ヒカリは自分の組が優勝できそうで嬉しくてうきうきした。 大輔がそんなヒカリを目を細めてみているとは知らず。 「ね、大輔くん。皆の所に戻ろうか。」 「足大丈夫?」 「大丈夫だよ。もう何か競技をするわけでもないし。」 「じゃあ、エスコートしましょう。」 そこでヒカリは大輔の顔を見る。 優しく微笑んで手を差し出す大輔にヒカリはどきりとした。 「なーんちゃって。カッコつけすぎ?俺には似合わないか。」 と、こんどはにかりと笑ってみせる。ヒカリは一瞬であきれてしまった。 「そうね、ちょっと。ヤマトさんや、タケル君ならともかく。」 「でーっ。」 大輔ががっかりして肩をすくめてヒカリは笑ってみせた。 大輔のふとした接し方や仕草にどきりとさせられるかと思えばおどけたり。 男の子だなぁ、と感じる瞬間があるのだ。大輔は。 きっと大輔の良さに気が付いている子もたくさんいるだろう。 ずっと好意をしめしてくれる大輔にいつか答えを返さなければないらない。 この夏から以前と変わってきた感情を。 幼なじみで、友人で、同じ選ばれし子供という仲間で。 この関係を変える答えを。 だけど、今日はその瞬間を逃してしまったようにヒカリは思う。 「じゃあ、行くか。」 ふたたび差し出された手にヒカリは笑って自分の手を置いた。 大輔に手伝ってもらってヒカリは騒ぐ皆の元へ行くのだった。 蛇足。白組は見事優勝しましたとさ。 end 秋と言えば体育祭。デジモン、デジタルワールドなしのほのぼの学園ストーリーなぞ。 いつもながら季節はずれネタ。 文化祭とセットで同人誌で出そうとしていたものです。 本にできずこっちにアップ。なんだかいつもながら進みませんでした。この話。 しかも長い‥。てへ。 ヒカリ、大輔に対して今までより好意的です。同人誌「DIVE」その後の設定。 電脳に戻る |