大地の子供-プロローグ「え?そんなこと。」 ないって言っても母は騙される事はないだろう。 輝一はそう観念した。 だって、目の前は携帯のショップでウインドウに並べられた新しい携帯電話が見えたりするから。 「うん。まあ。」 「小学5年になったし、退院お祝に親子で買おうか?」 「え?ほんとう?」 輝一にしては珍しく声を上ずらせて喜んでしまった。 「うん。」 じゃあ、じゃあこれ。と輝一はディスプレイされた携帯の一つを指す。 それはシンプルなホワイトを基本に青い線が入った携帯。 新型ではなく一つ古い機体みたいだが、輝一は唯一の弟である輝二が持っていたデジバイスに似ていたから。 何となく気に入ってしまって見とれていたのだ。 「輝二が持っているのは黒だし対照的でいいかもね。」 母は同意した。 「本当は反対がいいのだけど。輝二の方がこういう色が相応しいとおもうんだけどね。」 輝一の軽い苦笑に母親は気がついたが特に何も言わなかった。 光の闘志の輝二と闇の闘志の輝一。 「じゃあ、入ろう。早く。」 母の気が変わらないようにと輝一は母の手をひいてショップに入った。 あの戦いから約二週間が過ぎた。 輝一は階段からの落下と一時とは言え心肺停止となったため検査入院していたが、1週間前何ごともなく無事退院した。 今日は退院後様子観察の為病院に受診となっている。 予約時間ギリギリに輝一親子は病院についた。 総合病院らしく待つ事一時間。 輝一もかなり入院中気に入っていた担当医師にあう事になる。 いつも通りの診察をしたあと、医師は変わりないかなどいつもの事を聞いてくる。 輝一は半分呆れ、半分仕方なく問診に答えていたが医師の視線が一生懸命自分と母を見ている事に気がつきため息をつく。 「先生。」 「ん?何かあるかね。」 「オ、僕は特に問題ありません。というかそろそろ母にあうためのダシに使うのやめて下さいよ。」 「はっ?」 医師と母が同時に発語したがその表情が違うのは分かる事だと思われる。 何度か瞬きする母といや、そのっと慌てふためく医師。 輝一は余所見をしながら軽く口笛をふく。 診察の介助につく看護師もくすくすと笑っている。 医師が輝一の母に思いを寄せているが、不器用故に先にすすめない事は看護師の間では笑い事になっているようで、入院中に輝一も気がついていた。 「オレは先に帰るからごゆっくり。」 「あ、えっと。木村さん、えと。」 「あ、はい。」 そのまま医師は母親に話し掛けようとしている。 母親も状況が飲み込めてやや困惑しているが見せている苦笑は嫌だからというわけではなさそうで輝一はさっさと診察室を出ようとする。 「輝一、このあと輝二に会うんでしょ?あまり遅くならないようにね。」 女性であり母であるたしなめに輝一はハイハイと答えて今度こそ診察室を出た。 輝一が最後の診察患者だったようで廊下は静かだ。 医師と輝一の母に気を使ってか看護師も出てきて輝一に声をかけた。 医師の表情やら態度がおかしいと二人でひとしきり笑って別れた。 多分休憩に入るのだろう。 輝一も静かな廊下をのんびり歩いていく。 「輝一君にはやられますな。本当にしっかりした子で。木村さんも御自慢でしょう。」 医師は照れながらも輝一を誉めた。 彼女の息子も応援してくれるなら、このお膳立てを利用しない手はない。 「まあ、ありがとうございます。」 そこで輝一の母は首をかしげる。 「あの子には我慢させて無理させて。でもいい子だと学校の先生も誉めてくれますけど。」 「けど?」 輝一の母は苦笑した。 「なぜか自分を出したがらない。空気のように闇のように静かにあろうとして小学生らしくないと。」 「それは‥。」 「能力的には子供達の中心的存在に、光になれる子供なのにって。私が我慢させて無理させたせいで自分を出すのを止めたのかもしれない。」 少し表情に影を落とす輝一の母親に医師は戸惑う。 「そんな事は。」 「これからあの子に誰かを照らす光になってほしいと思います。」 「そう、ですね。」 二人は輝一が出ていった診察室の扉をただ静かにみたのだった。 病院を抜けるとそこは桜並木だった。 輝二とはその先の公園で待ち合わせる事になっていた。 「わあ、すごいな。」 桜は今は散りつつある。 舞う桜の花びらをどれとなく追いつつ輝一はひとり微笑む。 暖かい日の光、振り注ぐ桜の花びら。 ベンチに座ってぼうと見ていたら眠気がやってきた。 新しい携帯の画面をみると約束の時間までもうすぐだった。 もうすぐ輝二にあえる。 彼ならどこにいても近付けば分かるから。 「くそっ。」 三上大地は地面を蹴る。 とにかく最近面白くない。 別に学校が面白くないとか、友達と喧嘩をしているとかではなく。 いや、分かっている。 休みごとに楽しみにしていて出かけていた場所にこの春休みはいけないから。 心を波立たせる人の顔を思い浮かべそうになってかき消した。 何気なく足を運んだ公園。 嫌味なくらい桜の花びらが舞い暖かい日ざしに、自分の空しさを笑われているみたいで大地は再び地面を蹴ろうとした。 と。 無視できない気配に大地は足をおろす。 気配を追うと、そこにはベンチに座り目を閉じる少年が見えた。 その姿を認めたとたんとくんと胸がなる。 大地は惹かれるようにその少年の側によっていた。 別に桜の木の下で死体があるとか思わない。 だってその存在感は離れた大地にもあたたかで生命の息吹を感じさせられたから。 すぐ目の前まで行くとその少年の片方の目蓋に花びらが当たる。 あ、とおもったとき少年が静かに瞳を開いた。 花びらに目蓋を触れられたためか大地の気配に気がついたためか。 しかしゆっくり開かれた瞳に大地は目を奪われてしまう。 覚醒によりさらに増す存在感。 大地は息を飲んだ。 少年はしっかり覚醒していないのかぼんやりした瞳で大地を見る。 二人しばらく見つめあう。 「だれ?」 ぽつりと出た低い声に大地ははっとなる。 「あ、オレ。」 「輝一!」 呼び声に振り返って吃驚する。 目の前にいる少年がもうひとりいたからだ。 しかし冷静に見ると目の前にいる少年より髪が長くさらにきつい印象があった。 服装も違うではないか。 双子か?とおもい目の前の少年を見直すと少年は何度か瞬きをしていた。 しかしそれが笑顔に変わる。 「輝二!」 嬉しそうに立ち上がり駆け出す。 さらに増した存在感に大地は驚いた。 だから輝一が隣をすれ違った時ぶつかり情けない事によろけてそのまま尻餅をつく。 「あ、ごめん。」 輝一は軽く振り返るもそのまま止りもせず、兄弟の元にかけていく。 隣ではそっくりな少年がどんくさいといわんばかりの目でちらちとみたが嬉しそうな輝一に声をかけれられ背中を向けた。 ふとそれをおう輝一の存在感がなくなる。 大地は立ち上がり尻の泥を払いながら首をかしげる。 「なんか変な奴だ」 双子に背をむけてそこから立ち去る事にする。 公園に来た時に感じた苛立ちが消えていた事には気がつかなかった。 「知り合いか?」 輝二に聞かれ輝一は首をふる。 「ううん。知らないよ。」 そういえば側にいたと言う事は何か用事があったのかな?と思い振り返るがさっきの少年はもういない。 「でも。」 「でもなに?」 聞き返す輝二に輝一は笑う。 「ううん。なんでも。」 拓也みたいにゴーグルをつけて感情と一緒にくるくる動く丸い目。 身体から溢れんばかりの元気そうな気配。 輝一はかわいいなと思いくすりと笑っていた。 輝一と輝二は街を歩く。 適当なところで遅い昼御飯を食べて、輝二の家へちょっとお邪魔する予定だ。 「あ、そうだった。輝二。」 「ん?」 輝一はポケットから慣れない手つきで携帯を取り出した。 「じゃん。携帯、母さんと一緒に買ったんだ。」 輝二の目の前に突き出すと輝二は笑う。 「そうか、良かったな。じゃあ、早速番号教えろ。」 こちらは慣れた手つきで携帯を取り出すと登録のために操作を始める。 「え、今日買ったばかりで良く分からない。えっとここだっけ?」 輝一がしどろもどろと操作していると、輝二は始め横から覗くだけだったが、待てきれず「貸せ」と輝一の携帯を取り上げる。 輝一が見ている前であっと言う間に登録してしまった。 ほら、と輝一に携帯を返すと着信音がかかる。 びっくりして慌てて携帯に出るときこえてきた声は輝二で。 輝二をみると輝二は携帯で話ながら輝一に笑いかける。 「これからもっと好きな時にいろいろ話ができるな。」 「うん。」 輝一も笑って輝二を見返した。 「あ、でも通話料かかるからあんまり使い過ぎはいけないよっ。」 「‥‥わかった。オレから成るべくかける‥。」 しっかりちゃっかり節約家輝一君である。 「メールアドレスは?」 「メールはまだ何もしてないよ。」 「じゃあ、また教えろよ。」 「うん。」 輝一は新しい持ち物を嬉しそうに見ている。 「あ、そうだ、拓也や純平達にも聞かなきゃね。」 ふと輝二の表情が真剣になる。 「さっきまで純平と泉に会っていたんだ。」 「え?そうなの?残念。オレも会いたかったな。誘えばよかったのに、って二人にも用事があるかな?」 「オレ、思うんだけど。」 「なに?」 「あまりおれたちに無理して付き合うのは止めた方がいい。」 真剣なままの輝二にきょとんとする輝一。 「どういうこと?」 「オレ達に無理してあわせなくていいってことだ。」 「それってオレは蚊帳の外って訳?」 輝一は意味を飲み込みむっとしていう。 輝二は顔に手を当てながら首を振る。 「違う、そう言う意味じゃない。輝一はオレ達の中で闇の存在のままでなくてもいいってことだ。」 言いながらも自分でも上手く答えられず困っているような輝二。 輝一は、戸惑う輝二の様子に気がつかずどんどん怒りの感情に支配される。 確かに最後にスサノオモンで戦った時は自分は病院にいて生死を彷徨っていて対した力になっていないから。 輝二達の見えない絆の中にはすこし入りにくかった。 だけど、十二の闘士の一人として仲間の元になるべく一緒にいたいと思うのはいけない事なのか? 「いい、もう分かったよ。今日は帰る。」 ぎゅっと手を握りしめ一気に言うと輝二に背を向け走り去った。 輝二の呼び止める声も聞かず。 輝一が家に帰ると母が迎えてくれた。 「早かったのね。」 「うん、まあ。」 「もしかして喧嘩したの?」 「えっ、まさか。」 しかし声の調子で分かったのか母は笑う。 たまには兄弟喧嘩もいいかもね、でもほどほどにしてお互い仲直りしなさいと。 とりあえず輝一は苦笑いで答えてみた。 どうやら昼の件で医師は母親を食事に誘う事に成功したようだ。 輝一はその担当の医師が好きだったので母親と上手くいくことは嬉しい。 明日の夕食に、ということで輝一も誘われたが邪魔になってはいけないと断る。 食事を済ますと母親とさっそく買った携帯を説明書をみながら操作してみる。 アドレス機能を操作していると輝一は輝二の電話番号をみることになった。 昼の事を思い出し思わず消してしまおうかと思ったが留まる。 思い切れない自分が空しい。 輝二が何が言いたいかなどわからないし、分かりたくもなかった。 次の日。 休日、とくにする事もなく家でのんびりしていた輝一。 母親は仕事でそのまま食事に行くはずで今日は遅くまでひとりゆっくりするだろう。 家の家事を一通り済まし、携帯を弄びながらぼんやりしていた。 と。 ピリリリ、となる携帯。 輝一は一瞬何があったのか分からなかったが画面をみてメール受信の音であった事が分かる。 しかし首を傾げた。 だって、まだ輝二にさえメールアドレスは伝えてない。 母だって仕事中にメールをするマメさはないだろう。 まだ誰からも来るはずはないのだが。 さっそく有名な迷惑メールかと思わず顔をしかめ見る。 開いたメールは。 差出人はなく、単調に。 ゲームをしますか?しませんか? yesとnoで聞いてきている。 輝二達に前の冒険のくだりを聞いていたので輝一は一瞬目を疑い画面をみる。 間違いない。 輝二達に連絡を取ろうと思い自宅の電話に手をのばしかけて思いとどまる。 わざわざ連絡する必要はないと。 半分意地になっているかもしれない。 輝一は画面を再び見る。 そして これ以上変われる運命があるなら、付き合ってやる。見せてみろ、と。 そんな気持ちで輝一はyesボタンを押した。 輝一メインのオリジナルストーリー オリキャラでまくり。 パラレル?大丈夫よんという方はどうぞおつきあいください。 輝一と大地の二つの視点でかく予定です。 電脳に戻る |