大地の子供1最近よく見るのでまたあの夢かとすぐ分かる。 以前は無闇に走り回っていたが、そのうち目が覚めるのは分かっているのできょろきょろしながら立ったままでいる。 と。 いつもなら暗闇で何もないはずの空間に自分以外の人が立っているのが分かった。 近付くため足を動かす。 特に何の障害もなくその人に近付いていく。 自分と同じくらいの年齢の少年にみえる。 声をかけようとしたらその前に目の前の少年は笑って一つの方向を指差す。 指を追って見た先に光が見える。 今まで闇しかなかった空間に見える光に大地は嬉しくなって再び少年を振り返って見た。 しかし少年の姿は薄れいくところで。 引き止めようと、腕を掴もうとした手は空を切り。 あっと思ったところで。 大地は目を覚ました。 見えたのは見なれた天井と手のひら。 大地は上に挙げていた手のひらをぱたりと下げてむくりと起き上がった。 ぼーっとしているとバンとドアが開き母親が入ってくる。 「ほら、大地!休みだからってだらだら寝てないでって、あら?」 母親は掃除機を持ってきょとんとする。 いつも遅くまで寝ていて起こされる息子が珍しく自分で起きて居たからだ。 しかし現実に返り大地をベッドから追い出す。 「せっかくの良い天気なんだから外で遊んでいらっしゃい。大地のふとん干すんですから。」 パジャマまで剥ぎ取られ、大地の布団を干しテキパキと掃除を始める母親。 大地は部屋から追い出される形になり、のろのろ着替えてしぶしぶ外に出る。 大地は家の側の公園にいく。 いつもなら遊び相手が何人かいるのだが今日はどの子も出かけていない。 いわく両親と遊園地にいくとか、どこそこにピクニックにいくとか。 大地はひとりブランコに座りため息を付く。 大地一人が暇を持て余しているようだ。 いつもなら休みごとに楽しみにしていて遊びにいくところがあるのだがこの春は無理そうだった。 もしかしたらずっと‥。 春のはずなのに冷たい風が吹き抜ける。 しかし大地は風の冷たさのためだけでなくぶるりと身体を震わせた。 「あー、ちくしょー。退屈だー。」 手足をのばしてじたばたする。 と。 着信音に大地は携帯へ手をのばす。 「メールか?ちぇっ誰か自慢でもしてきたかな。」 しぶしぶ開いたメール。 差出人はなく題名もない。 「なんだあ?」 現れた画面には単調なメッセージ。 ゲームをしますか?しませんか? yesとnoで聞いてくる。 「へえ、ゲームか。やってみるか。」 何も考えず大地はyesを選んだ。 と画面が光る。 「あ?」 「三上大地君、運命を変えるゲームは始まりました。」 静かな女性の声。 自分の名前を呼ばれ唖然としたが、次の指定の場所を聞いてその驚きは別の驚きに塗り替えられた。 「げーっ。間に合うのかよ。」 大地は指定された駅に向かい走り出した。 歩く人や自転車でいく人を避けながら大地は走る。 駅に付いた時ホームに指定の時間発の電車が滑り込むところだった。 「えっと。」 切符売り場に駆け込む。 「渋谷まで、と。」 慌ててボタンをおすのにも手惑う。 しかし、先を示すように勝手に点滅するボタンが見え、大地は無意識的にそのボタンを押していた。 「あ、ま、いいや。取りあえず!」 行き先を確認する事なく出てきた切符をとり改札を潜る。 発車のベルが鳴り響く中大地は電車に飛び乗った。 後ろで閉まる扉の気配を感じながら大地は息を整える。 「間に合った。」 ふと見た反対側のドアにもたれた少年が目に入り大地はおやと思った。 あれ、どこかで。 思い出したいのに思い出せない。 少年は飛び乗ってきた自分に軽く苦笑のようなものを見せる。 大地はその苦笑にむっとして、くるりと向きを変えて動き出した風景を見る。 とまた着信音が。 大地はメールの画面を見る。 ふと目を反対側の少年に向けると同じように携帯の画面を真剣な顔で見ていた。 周りに目をやると同じように携帯画面を見ている子供達が目に入る。 「みんな同じゲームをしているのか?」 大地は微かに驚いて画面に意識を戻す。 またもや時間ギリギリの指定に大地はげ、と呟く。 結局時間ギリギリの指示は何度か続き大地は都内を走り回る事になる。 次の指定は渋谷駅から地下鉄に乗る事だった。 渋谷駅に降り立ち地下鉄の入り口を目指すと先ほどの少年が軽い足取りで追いこした。 大地はむっとして少年を追い掛ける。 そのころ。 輝二は拓也と渋谷駅内のファーストフード店でため息をつく。 「お前がため息をつくとすげー辛気だから止めれ。」 親友で恋人の拓也に笑われ輝二は軽く目の前の頭を拳骨で殴る。 「てーっ。どうしたんだよ。」 「いや、輝一を怒らせてしまってな。どうしたものかと。」 「えっ。あの輝一を怒らせたのかよ。何したんだ。お前。」 輝二は肩を竦める。 「本当の事を言っただけなんだが。」 拓也が今度はため息をつく。 「お前の本当は実は堪えるんだよなぁ。」 「そうなのか?」 「ああ。まあね。」 拓也は笑い首を竦める。 「内容は分からないけど、頑張ってフォローしろよ。」 ふと輝二は拓也の背中越しに外を見た。 そこには走っていく自分の兄が見えた。 「輝一?」 「え?どこ?」 なにやら懸命に走り抜けていく輝一、その後ろには競うように輝二の知らない少年が追いかけている。 異様な雰囲気に輝二は立ち上がっていた。 「追い掛けるぞ。」 「え、おい。」 慌てる拓也の気配がしっかり付いてくるのを確認しながら輝二は輝一を追って走り出した。 少年は地下鉄のホームに続くエレベーターに向かった。 大地はそのまま少年の背中を追う。 締まりかけたエレベーターにぎりぎり二人は飛び乗る。 閉じるドアの向うで「あ、」と声が聞こえ途切れた。 数人の子供がドアの向うにいる気配がしたがドアは閉じて下降していく。 息を付く大地に隣の少年は顔をしかめ呟く。 「こうやって必要な子供だけが選ばれ必要ないものは弾かれていくのか。」 「え。」 大地が聞くが少年はそれきり黙ってしまう。 二人以外だれもいないエレベーターの室内。 動き出した箱に大地は少年に声をかけようとしてかけれなかった。 その少年が悲しそうな表情をしていたからだ。 静かに降りていくエレベーターの振動を感じながら、しかし違和感に大地は気が付く。 そんなに距離がないはずなのに着かないから。 「どこまで降りるんだ?」 「さあ、地の果てまで?」 大地が少年をみると苦笑した紺色の目と視線があう。 加速していくエレベーターと静かな表情の少年に大地の不安は増す。 大地がきょろきょろして上を見たり窓の外をみているとそのうち、 がくん、とエレベーターは減速し止まった。 静かに開くドア。 降り立つ輝一に大地も一瞬遅れて降りた。 そこにはホームと何台かのトレールモンがいる。 もちろん大地には名前など分からなかったが。 「なんだ?地下鉄のホームじゃないよな?ここ‥。」 きょとんとしている大地に携帯がメッセージを発した。 最後の選択です。乗りますか、帰りますか? 動いた隣の少年に大地もハッとなりトレールモンに向かう。 18時の発車のベルが鳴り響きトレールモンはゆっくりと走り出す。 少年が飛び乗り大地も追い掛ける。 振り向いた少年がふと表情を動かし、手を伸ばしてきた。 「掴まって!」 大地は無意識的に手を伸ばした。 細いが強い力に助けられなんとかホームを抜ける前に大地はトレールモンに飛び乗った。 「った。間に合った。」 遠く後方へ、離れていくホームを見送り大地は息をつく。 同じく隣の少年も息をついた。 ふと大地は少年を見、少年も見返す。 目があった。 少年は笑う。 「貸しにしとく。」 そういって繋いだままの手をあげた。 そこで大地ははたと気がつき手を振払う。 「何言っているんだよ。そんなのなしだ、なし。」 と少年は再び笑った。 景色が流れていき、隣で乱れる髪を整える少年。 ちらりと大地は隣に並んだ少年の表情を伺った。 だんだんとトレールモンが加速していき、吹き抜ける風が冷たく強くなってきた。 「中に入った方が良いかな。」 「そうだね。」 車両に入る。 「オレ達だけか?」 「けっこうオレ達くらいの子供が集まっていたからもの好きがのっていると思うんだけど。」 「あー。暇人がなー。」 二人でなぜか笑いあう。 誰もいなくて他に乗っている人がいないか捜して前の車両へと進んでいく。 ちらりと覗く窓からは景色が素早く流れていき今ではどの辺りを走っているのか分からなかった。 結局一番前の車両まで移動してきた。 ドアを開けて入ると3対の視線がこちらに向く。 「お、物好きの暇人がいた。」 「失礼ね。」 まん中の席に座った少女はそっぽを向く。 そばかすの入った小柄な少年は首を竦めこちらを伺っている。 もう一人は一度こちらを見るがすぐ目をそらした。 なにやらかみ合ってない一同に大地は戸惑う。 しかしとなりの少年は軽く笑うと前に出る。 「たぶん旅は道連れって感じになるだろうから仲良くしよう。まずは自己紹介しようか? 俺は木村輝一。小5だよ。」 そうか、輝一ていうのか。 後ろで同行者の背中をみていた大地に輝一は声をかける。 「君は?」 そこで大地もはっとなる。 「あ、俺、三上大地。よろしく。ちなみに小5。」 よろしく、と輝一のみが答えを返す。 他のメンバーは黙ったままだ。 輝一は無難にか、おどおどした少年に声をかけた。 少年は戸惑いつつも笑う。 「天野駿です。小3。よろしく。この汽車どこへ行くのかなぁ。」 「どこかな。着いてからの楽しみということで。」 輝一が笑うと駿も笑った。 「地獄行きだったりしてな。」 大地が茶化すと少女が嫌そうな顔をする。 「そんな事言うのやめてよね。」 大地は手を挙げハイハイと謝る。 輝一は苦笑して少女に尋ねる。 「君は?」 「倉田伊吹よ。あんた達と同じ学年ね。」 そっぽをむきながらも少女は答えた。 全員の視線は残りの少年に向く。 「君は?」 めんどくさそうに少年は言う。 「別に言う必要はないんじゃないか?」 あまりにそっけなくいうので他のメンバーはむっとなるが大地が混ぜ返す。 「なんだよ。名前分からないと呼べないだろう?名無しのゴンベイって呼ぼうか。それとも眼鏡くんかよ?」 「眼鏡君っていうなーっ。小林瑛市だっ!」 過去にからかわれて苦い経験があるのか噛み付くように言った瑛市。 「なんだよ。名乗る名前あるんだろ。勿体ぶるなよ。」 とからかう。 「年上なんだから敬えよ。」 年上かよー。信じられねーと大地が再び混ぜ返し瑛市はむっとして他のメンバーは笑う。 気がつくと外は暗くなっているようだった。 「どんなゲームになるのかな。」 「わからない、でもわくわくするわね。」 「このスリルみたいのがたまらないなー。」 「取りあえず退屈しのぎさ。」 何となく打ち解けてきたのかメンバーでゲームの話になる。 「皆楽しむのも良いけど、気をつけて。何があるか分からないよ。」 輝一が慎重に言うと他のメンバーが呆れた顔をする。 「輝一は大袈裟だな。」 「何恐れているの?」 「だってゲームなんだろ?気楽に楽しもうよ。」 「そう、面白くなかったり飽きたら止めればいいんだから。」 輝一は気楽な表情のメンバーをみて困った顔をする。 不安そうな、だけどなにか覚悟の見える輝一の表情に大地も気がつく。 「たぶん。帰りたくてもすぐには帰れない。来てしまったから。自分が選んだのだから。」 輝一が進行方向を静かにみて呟き、他のメンバーもひとり静かな輝一に違和感をもって見つめる。 「え?」 「なに?」 「どういうことだ?」 メンバーが聞き返そうとしたところで、車両に急ブレーキがかかり揺れ大きく揺れだす。 「わっ。」 「きゃっ。」 立っていたものも座っていたものも振動に投げ出され転がる。 それぞれなんとか手すりに掴まり振動に耐えている時。 大地は自分に降り注いだ気配にハッとなる。 転がった背中に触れる温もり、身体をしっかり受け止めるしっかりした広大な土、臭い。 駿は生い茂る緑を、伊吹は流れ落ちる水を、瑛市は閃く鋼をそれぞれビジョンとしてみて気配を受け止めていた。 「なに、なんで?これはなに?光?なぜ?闇ではなくて?」 輝一は呆然と呟いていた。 大地は他のメンバーと反応の違う輝一に一瞬意識を向けたがすぐにそらされる。 ポケットから発せられる光に手をのばし取り出す。 それはついさっきまで使い慣れた携帯電話だったもの。 大地は目を見開きその光を発するものを見る。 それは他のメンバーも一緒だった。 と、振動がおさまり外が明るくなる。 目を細めたり手で覆い、光を避けていたが慣れるとそれぞれ窓により外の風景を見る。 「ここは?」 日本の都市東京とはかけ離れた緑と大地の豊かな風景が眼下に広がり、頭上には真っ青な空が見える。 伊吹の目の前を車両に沿って集団で飛ぶ白い生き物が見える。 「なに?」 その一つと目があうとよってきて窓に張り付く。 伊吹はむっとして窓をばんばんと叩く。 「なにやっているんだ、お前。」 呆れる大地。 窓を叩くだけでは外の物体も堪えるふうでなく、バカにしたような調子で鳴いて飛び去っていった。 「な、なにあれ、なんだかむかつく!」 「さ、さあ。生き物みたい、だな。」 とゆっくりトレールモンが減速していき、全員が再び窓に寄り外を見る。 見えてきたのは岩場の多い静かなところだった。 ホームに全員降り立つ。 「ようこそ、デジタルモンスター達の住む世界、デジタルワールドへ。」 低い声が響き全員が振り向く。 「げっ。汽車が喋った。」 おののく大地にトレールモンは鼻で笑う。 「何驚いておる。わしだって生き物だから喋るわ。」 と岩の固まりのようなものがたくさんよってくる。 「子供だ!人間の子供だ。」 「本当だ、人間だ。」 「伝説通りだ!」 「助かるぞ!」 黒いもの達に大地達は囲まれてしまう。 しかもとってつけたような黄色の丸い目にじっと見られ駿は泣き出してしまった。 「わーん。」 駿は後ずさりトレールモンに駆け寄る。 「恐いよお、僕帰る。」 しかし、トレールモンはぱたんと車両の扉をすべて閉じてしまう。 「だめじゃ、お前らは帰すわけにはいかない。」 「なんで?!」 大地は理由が分からずだけど聞いていた。 「お前らはこの世界を救わなければならないからだ。」 「え、おれたちが。」 「この世界を救う?」 メンバー一同唖然となる。 「そのためにオファニモン様に命ぜられ現実世界からお前達をつれてきた。」 「オファニモン?」 「スピリットを捜せ、そしてオファニモン様のところへ行け。」 そういうとトレールモンは汽笛をあげ、走りだす。 「あ、ちょっと。」 「スピリットってなんだよっ。」 大地は大きな声で叫ぶ。 「っていうか、オファニモンってのはどこにいるんだよ!!」 大地は地面を蹴飛ばしていた。 大地の叫びには誰も答えず、トレールモンが去ったあとの風が吹き抜けていくだけだった。 当事者達はまだ気がつかず受け入れられないまま。 デジタルワールドの存亡を賭けたゲームが今ここに始まる。 続く 輝一メインのオリジナルストーリー 続きです。 オリキャラメインの子供達が集合したところまで。 彼等がこれからどんな冒険をするのか。 どうぞおつきあいください。 電脳に戻る |