君の向うところ

「アキ、準備はいいかい?」
アキは静かに頷く。
その返事を受けて目の前の男、ディヴァインは微笑む。
「じゃあ、始めるよ」
アルカディアムーブメント本社のある一室。
ある実験が行われようとしていた。
デュエルディスクを装着した二人が向かい合う。
少し離れた周りには研究者達が取り囲んでいる。
「本当はアキの替わりに私があの不動遊星と対戦したかったんだけどねぇ」
シグナーでもあるアキが羨ましいとディヴァインは笑う。
アキがサイコキネシスの能力者ならディヴァインはサイコメトリーの能力を持つ。
つまりデュエルをするとアキは相手に物理的なダメージを与え、ディヴァインは相手の過去から、現在、見える時は未来までも視る。
その力で始めに出会ったとき、アキはディヴァインに全てを知られてしまった。
普段はまったく発揮されない能力もデュエルではディヴァインの意思とは関係なく発揮されるらしく、制御がこれからの彼の課題らしい。
アキがどこまで物理的ダメージを制御できるかと同じく。
治安維持局が力でシティを支配しようとするなら、アルカディア・ムーブメントは未知の能力と畏怖で支配君臨しようとしている。
目指すところは同じなのだが、アキにはどうでもよかった。
ディヴァインがアキの全てを知りつつもアキを受け入れてくれたから。
例えば、最近行われたデュエル・オブ・フォーチュンカップで戦った来宮がアキのすべてを知りながらも忌み嫌い背を背けたのと違い。
アキの全てはディヴァインなのである。
最近出会った頬にマーカーを刻んだ青年の青い瞳をふと思い浮かべアキは首を振った。
今からアキと不動遊星のデュエルを再現する。
対戦相手はディヴァインだが、アキを鏡のように見立て、間接的に遊星の過去や、現在、未来を視る事で、シグナーの謎やこれからの対応について探ろうとしているのである。
「デュエル!」
ほぼアキと遊星の決勝戦を再現し、アキがブラックローズドラゴンとディヴァインが遊星のスターダストドラゴンを召還したところで、アキの腕のアザが鮮やかに輝く。
「!」
赤い光りに包まれ、目を閉じたアキはディヴァインに名を呼ばれ目を開けた。
それは闇に包まれた世界である。
あまりの深さに目隠しをされたようである。
「どうやら彼の過去は簡単には見せてもらえそうにないね。それとも誰かに守られているのか」
すぐ近くでディヴァインの声が聞こえ、見上げると側にディヴァインが佇んでいるのが判り、アキはホッとする。
間接的なものもあるからかもしれないけど、とディヴァインは意識を切り替える。
ふと景色が替わり、暗い焔の壁の中で対峙する遊星と黒いフードをかぶった男の姿が見える。
「あれは?」
アキとディヴァインが同時に着目したのは遊星の腕で赤く光る竜の痣と相手の腕で光る蜘蛛の痣である。
と相手が見慣れぬカードを使い、見慣れぬモンスターを召還する。
マイナスレベルのモンスター。
驚くアキとディバインの前で卑怯とも言える特殊効果でダメージを受けた遊星が弾き飛ばされて見えぬ壁に打ち付けられる。
「遊星!」
アキは悲鳴を上げて思わず駆け寄ろうとし腕を前に出したディヴァインに阻まれる。
「アキ、取り乱しては駄目だ。多分これは過去の出来事だろう」
冷静なディバインの声にアキははっと冷静になる。
「我々は起きた出来事を見るだけだ」
「‥‥‥‥‥」
唇を噛みアキはデュエルを見守る。
一心不乱にデュエルに望む遊星には自分の姿は映らない。
その事実が辛くて、なぜと思う。
見守る中、遊星が自分のモンスターを召還し、相手にダメージを与える。
さらに効果を利用し止とどめを与えると、フードの男ががくりと倒れる。
「お見事、さすがニューキング、カードを知り尽くし、運を引き寄せるのにも長けているようですね」
その声に反応するようにアキは自分の視界が白く覆われまぶしさに目を閉じる。
「アキ」
ディヴァインに呼ばれ、目を開けるとそこは研究室である。
デュエルをしたいた時と同じく対峙したままである。
研究者達が何か数値を言い合い、調整している。
ディヴァインはアキの側に歩み寄る。
指を顎に当てながら、ディヴァインは呟く。
「ダークチューナー、マイナスレベルのモンスター、ダークシグナー、蜘蛛の痣。いろいろ情報が入りました。まずまずの収穫だね‥‥‥アキ?大丈夫かい?」
「ハイ」
「調べる価値はあるな。また、何かが始まったようだ」
アキは頷く。
ディヴァインはアキの表情を見て苦笑する。
「疲れたみたいだね。休むといい。お疲れサマ」
肩を叩かれ、アキは目を閉じ頷く。
他の研究者と真剣に話をするディヴァインを一度振り返り、彼がふとアキを見て笑ったのに笑い返しアキは研究室を後にする。
ふと手がしびれている事に気がつく。
強く握りしめていたからで自分がかなり緊張していた事を今頃自覚する。
全てを受け入れたディヴァイン。
そして遊星もアキを受け入れようとした。
ディヴァイン、そしてアルカディアムーブメントはアキを包み込み支え何も考えなくてもいいという。
遊星はアキの存在を認めつつ、彼女が自分で考え行動するよう少し離れて手を差し伸べようとしている。
アキは自分が宛てがわれた部屋に入る。
何かが始まっている。
ディヴァインが言った言葉はアキにもひしひしと感じられた。
そして遊星はそれに既に巻き込まれ翻弄されている。
それでも自分の力を信じて立ち向かう遊星に、アキは側で見守り、できれば助けたいと思ってしまった。
遊星がアキにしようとしたように。
アキは目を閉じる。
選ばなければいけない時が来ている。
ディヴァインの側で彼の庇護を受けたままぬくぬくと過ごすのか。
シグナーの絆を信じて遊星達と運命に立ち向かうのか。
アキは苦笑を浮かべるとシャワーを浴び、着替えてベッドに横になる。
いつも研究室での実験は体力を消耗する。
ひどい眠気を言い訳にするようにアキは考える事を放棄した。


fin


間接的遊アキです。(遊アキなのか?)
サイコデュエリスト集団のディヴァインとその庇護を受けているアキにふとこんな話が浮かびまして。
ディバインがEPS能力者だったら萌えるなぁと。公式で彼の能力が明かされる(のか?)前に書いてみました。
PKのアキと対称的でいいかと。(注notディアキですよあくまで)
遊アキにとってディヴァインはキーマンだといい。(期待をもって。それが裏切られる可能性もあるが)
そしてアキは優しいディヴァインの手を離して早く遊星の元にいくといいよ。遊星はそれほどの価値があるといい。(これ本心)
2008.11.02

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