護るもの

デュエルフォーチュンカップ後、遊星はニューキングとして罵声と歓迎の両方を受けていた。
特に変わり者達がニューキングと関わりを持とうと声を掛けてくる。
今日も何やら豪邸に招待され、遊星は内心うんざりとしていた。
お忍びの身の上だが、なぜか見つかるもので。
相手は話題性を取りたいだけらしく、害を加える訳ではなさそうなので、氷室や矢薙にも太鼓判を押され渋々ニューキングとして接している。
ふと遊星は庭の花に目を向けた。
小さな庭園があり、上品に花々が咲いている。
遊星はその一つの花に目を引きつけられた。
「ああ、ニューキング、お目が高い。その花は今朝咲いたばかりなんですよ」
「これは牡丹?」
「いいえ、バラですよ?名前は‥‥‥」
フォチュンカップでの遊星の対戦相手を知り、遊星が意識している事も知っている相手はにこりと笑ってバラの花の名前を告げる。
遊星の目が軽く見開かれた。

アキは雑誌を見ていたが実はあまり内容は入っておらず、ただぼんやり捲っている感じだった。
ふとある人物を思い浮かべそうになって慌てて首を振った。
「!」
いきなり腕の痣が光り、アキはあわてて立ち上がる。
ベランダの扉を予感を持ちながら開けて見上げた先に予想通りの相手を見つける。
隣の棟の屋上の手すりに腰掛けてきょろきょろしていた相手とすぐに目が合い、相手がフと微笑む。
その笑みに息を飲むと相手がアキの側に身軽に飛び降り着地した。
「なにっ?」
「ああ、すまない、渡したいものがあったんだ」
「渡したいもの?」
夜にいきなり渡したいものと言われてもアキは首を傾げるしかない。
これ、と差し出されたものにアキは軽く目を見張る。
「この花、バラの一種で名前が」
いい募ろうとした遊星にアキはかぶせるように答える。
「知っている」
「そうか。バラってとげがあって人を傷つけるような気がするけどやっぱり綺麗だから、皆に愛されているんだよな。だから十六夜も胸を張って自分で立っていればいいと思う」
「‥‥‥‥‥」
遊星はぎょっとする。
アキが涙を浮かべたからだ。
「俺は泣かせるような事を言ったか?」
アキは首を振り、そっと遊星の手に触れる。
「手に傷がついている‥‥‥」
「え、ああ、そうなのか、気がつかなかった」
あっさり言った遊星は笑う。
ちなみに昼に1輪どうかといわれ咄嗟に断って後悔したのだ。
その花がどうしてもアキを思いださせて、いたたまれず1輪失敬してきてアキのところまで来ている。
まあ、昼に許可があったから大丈夫だろうと遊星は意識を切り替える。
もちろんアキはそのいきさつを知る事はない。
「男の手にはバラの刺はどうってことないさ」
そっとアキの手の上にもう片方の手を重ねる。
「だから十六夜は俺を怖がらなくていい。安易には傷つかないから。この手が君を護る」
「‥‥‥遊星」
戸惑いに瞳を揺らして見上げるアキを遊星はじっと見つめる。
「夜ばいは歓迎しませんね」
穏やかな声が後ろからかかりアキは驚いて飛び上がりかけ、遊星はふと表情を改める。
「ディヴァイン!」
「さすが、サテライト出身にてマーカー付きのニューキング。日頃の非行の悪さが出ているようですねぇ。最高のセキュリティーを誇るこのアルカディアムーブメントの本拠地に乗り込んでくるとは」
遊星は嫌みを含んだ笑みを浮かべる。
「こういう時は気を利かせるもんだろう?」
「は?」
ディヴァインは余裕ある笑顔で答える。
「保護者として見過ごせるはずがないでしょう」
「え?」
アキは二人の間であたふたしていたが、ディヴァインが引き連れていた部下達にさっと手を挙げて合図すると部下達が前に進み出てディヴァインの背後へ庇われる。
遊星も笑みを消すと、軽々と手すりを伝って上の階へ飛び上がる。
「また、十六夜」
次の約束を言葉短につぶやき遊星は立ち去る。
「あ」
何か言いかけたかったがディヴァインに腕で止められ、思いとどまる。
「アキ、何もなかったかい?」
「え、ええ大丈夫よ」
ディヴァインは微笑む。
「それなら良かった。もっと警備体制を見直さないといけないみたいだね」
アキは遊星が立ち去った方向を見て、続いて手のバラに目を向ける。
「ロサ・ルクスブルギー・ブレナ‥‥‥十六夜バラか。なかなか目の付けどころがいい」
じっとバラを見て思いにふけるアキを見ながらディヴァインは目を細める。
心してかからなければ。と

あっさりアルカディア・ムーブメントの警備の追跡からのがれた遊星は夜の町を走りながら満足げに微笑む。
涙を見せた時には驚いたが、アキの驚いた顔やまんざらでなさそうな笑顔を見れて良かったと。
双子や氷室達が待つ隠れ家に向けて遊星は足取りも軽く駆け抜けていく。
そしてアキはバラを一輪挿し用の花瓶に生けて、指でそっと花びらに触れ、ふと窓の外を見上げた。


戦いは、もうすぐ。


end


ディヴァイン&アキアニメ再登場前に書きたい事を書いておく。書いたもん勝ちってことで。
本編と外れても笑って見守ってください。
十六夜バラの存在を知って、書いてみたくなった話です。四季咲きとか香りはほとんどないピンクのバラみたいですね。(検索で写真にはすぐたどり着けるがピンクしかないので)夜にも咲いてくれるかとか詳しい事は調べずに勢いで書いてみました。その辺も見逃して。ほんとはアキは濃い赤のバラのイメージですがその辺も多めにみてやってください。遊星がサテライトに戻る前の出来事的。(2008.11.22)

遊戯に戻る