笑顔と祈り2

7月7日
今日はモクバの誕生日である。
主役のモクバは、今日くらいゆっくり休めと兄よりKC閉め出し指令を受け、ましてや土曜日の今日は 学校が休みであり、暇を持て余してソファーでだらりと休んでいる。
午前中は兄に劣らず働き者のモクバは何もしなくていいといわれてもそわそわしていたが昼前になると落ち着いてきた。
開き直ったというか投げ出したというか。
使用人達が働いている気配を遠くに感じながら居間でのんびりしていると、執事から内線で来客の連絡があった。
モクバは飛び起きると玄関に向う。
約束はしてないが、来客が誰であるか想像がついたからだ。
果たして玄関まで行くと見慣れた笑顔がモクバを迎える。
「モクバ君誕生日おめでとう」
「おう、モクバ誕生日おめでとうさん!」
笑顔の兄妹にモクバの顔も綻ぶ。
「来てくれたんだ。ありがとうだぜぃ」
「おうよ。当たり前だろう?」
「お招きありがとうございます」
「は?」
もしかしたら来てくれるかもとは思ったが正式には招待していない。
中学校入学を目の前にして誕生日会だとか騒ぐつもりはモクバに無かったから。
「ああ、海馬さんに招待受けたから。モクバ君も知っているかと思っていたんだけどな?」
静香がくすくす笑うのに頬を掻きながら客室に向かう。
そこには示し合わせたように人数分の席と食器たちが準備してある。
これを指示したのが誰なのかはモクバはもうすでにわかってしまった。
うれしさとこそばゆさを感じながら使用人たちが引いた椅子にそれぞれ座る。
楽しく食事をしながら学校のこと、デュエルのこと、ゲームのことなど話す。
兄妹が作った巨大なケーキを堪能して、二人のやはり手作りのプレゼントについて話の花を咲かせて。
その後もゲームをしてみんなではしゃいでいた。
と執事がそっと部屋に入ってきて、城之内に用意ができました、と告げる。
「おう、世話かけてすいません。モクバ外行こうぜ!」
「は?まあ今日は晴れているけど」
はしゃぐ兄妹に促されモクバは玄関から外へ出る。
そこにたてかけてあったのは風に揺れる笹である。
「用意ってまさかこれ?」
「そうだぜ、7月7日といえば七夕様だろう!」
「みんなで飾りつけをしましょう」
うきうきと短冊や折り紙を持ってくる。
あきれているモクバに静香は微笑む。
「モクバ君も海馬さんも自分の夢は人頼みでなくて自分でかなえられる力を持っているかもしれないけど、神様に後押ししてもらってもいいかなって」
首をかしげていう静香の一生懸命さにモクバは何もいえず折り紙に手を伸ばす。

わっかつくり、あみかざりなど一折の飾りを作り、モクバは懐かしい思いになる。
こんな工作は何年ぶりかと思う。
童心に返って意外に真剣に作ってしまった。
お茶をして静香と城之内ははしゃいだまま飾り付けをしている。
モクバは少し疲れてほほえましくそんな二人を見守っていた。
「まったくどこの子供だという感じだな」
あきれた声にモクバは振り向くと兄がはしゃぐ二人をみている。
「兄様仕事は?」
「今日はさすがに早く切り上げてきた、ほかのものも協力してくれたしな」
「そっか」
モクバは軽く頬を染めて嬉しそうに笑う。
普段なら兄弟でゆっくりできることもない。
城之内兄妹がここ海馬邸にくるようになって外に用意したテーブルに海馬も座る。
使用人がそっとコーヒーを運んできて、海馬はそのコーヒーを飲みながらほっと息をつく。
「今日はゆっくりできそうだね」
モクバが嬉しそうにいうと海馬も笑う。
「ああ、だが静かには無理そうだな」
と七夕飾りをしながらはしゃぐ兄妹顎でさしていい、モクバはこれには苦笑を返すしかない。
ふと海馬はモクバが短冊をまだ白紙のまま持っていることに気がつく。
兄の視線に気がついたのかモクバは肩をすくめた。
「世界中に海馬ランドを作って子供たちを招待するって夢はぜったい実現するものだから」
ふむ、なるほど、と海馬は頷く。
「おーい、モクバ短冊書いたか。って海馬いたのか」
「俺が俺の屋敷にいて何が悪い?」
「そこまでいってねぇ!まあ兄弟で誕生日を過ごすてのはいいことだよな」
うんうんと城之内は頷く。
「モクバ君これ」
と静香も近寄ってきて笑顔でモクバの頭にそっと何かを載せる。
「え?なに?」
目線をあげるとそれが白い花で編まれた冠だと判る。
「王様だよ。今日はモクバ君が主役だから」
ニコニコしながら話す静香にモクバも和やかな雰囲気になりながら微笑む。
「あ、ありがとう」
「うん」
白紙の短冊をみてあららと呟く。
「書けたら一緒に飾ろうね」
私たちが側にいたらなかなか書きにくいかなぁと城之内の腕を引っ張って再び笹かざりの方へ向かい、兄妹でそれを見ながら話している。
良い出来栄えだとでも話しているのか。
「王様かぁ」
モクバが呟く。
現在海馬コーポレーションは世界に進出し劇的に成長している。
それはさながら世界に君臨する王のようで。
そう、モクバは尊敬する兄とともに今世界を歩いていく。
昔あこがれて手を伸ばしていた夢はもうすぐかなうところまでいっている。
この手が夢を掴む。
だから星に願うことなんてない。
ふとモクバは少しはなれたところで七夕飾りがゆれるのをみて自分の兄に微笑みかける少女を見る。
「あ、ひとつあったかも」
そっと息をつくようにそっと手でふれるように接している少女。
ただ壊れないよう、離れていかないように切に願っている。
「ずっと欲しくて側にいてほしい人が離れていかないよう、守れるように」
コーヒーを飲んでいた兄が隣でふと笑う。
「なるほど。確かに一筋縄ではいかない願いかもな」
海馬がふと視線を向けた先がモクバの位置からは見えないが判る。
その一言はモクバのことをさし、そして自分のことをも指すのだろう。
モクバは苦笑を浮かべるとおもむろに短冊に手を伸ばす。

「何かいたの?モクバ君見えないけど〜」
隣で背伸びをしながら聞いてくる静香にモクバは笑顔で流す。
「んーなんだろうね。それより静香がなにを書いたか知りたいぜい」
モクバの短冊は兄の協力でかなり高いところに飾られた。
「えへへ。みんなが1年中健康で幸せでありますようにだよっ」
モクバと違いモクバでも簡単に手が届くところに飾られた短冊を静香はモクバに見せるようにして笑う。
「願いの幅が大きすぎるというかあいまいというか」
「なんといわれてもいいもん。大事なことだから」
軽く頬を膨らましたあと静香は笑う。
そんな静香を見ながらモクバも。
「俺も同じような願いだぜぃ」
静香は嬉しそうに手をたたく。
「そうなんだ!・・だったらあんな高いところに飾らなくてもいいのに〜」
「まあ、そのほうが願いがかないそうだろ?」
「なるほどっ」
静香は兄に声を掛ける。
「お兄ちゃん、私のも高いところに飾って」
「はあ?なんで?」
「高いほうが叶うかもってっ」
面倒くさいなぁしょうがないなぁといいながらもシスコンの城之内は静香の短冊をいそいそと高いところに移動させている。
これで完璧と隣で満足そうな静香にモクバは手を伸ばすと手をつなぐ。
静香は一瞬驚いたようだが再び笑顔を向けて手をつなぎ返してくれた。

どうか兄様や静香や大事な人たちとずっと一緒にいられますように
隣の少女、テーブルに座っている兄や少し離れたところに立っている城之内、仕事の手を休め大きな笹飾りをみて和んでいる使用人たちの姿を捉えながら、モクバは静かに願うのだった。

end




過ぎてしまいましたがモクバの誕生日話です。
現実的な海馬兄弟はあまり願い事などしないような気がしますが、好きな人に関しては神頼みなところもあるかと。
誕生日おめでとうーモクバ!(似たような話でごめんよ)

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