スイートバレンタイン3


浮かれた気分になるバレンタイン。
少女達の味方バレンタイン。
少女たちは好きな人へ気持ちを精一杯伝えるために準備に余念がない。
手作りのチョコで飾り付けやラッピングはなど考えるだけで楽しい。
今日はかわいい包装紙を探して町を歩いていた。
ふと見た商品がまるで第6感のように本当にぴんと来たのだ。
手を伸ばそうとして。
「あ。」
四つの声が見事にハモった。
一つの商品を4つの手がつかんでいたからだ。
「えっと。」と固まるヒカリ。
「これは私が一番初めに見つけたんだからー。」と譲らずのミミ。
「なんで?私が先よ。」とこっちも負けずな、泉。
「まあ、別にいいけど。」でも未練ありげな目の留姫。
泉とミミがにらみ合い、ヒカリがミミを止める。
「ミミさん、落ち着いて。」
留姫はとりあえず一歩引いてみている。
「でも私、これが欲しいのッ。」
「私もよ。」
にらみ合う泉、ミミを前にして留姫があごに手をあててぽつりという。
「いっそのこと4人で分ける?」
4人の目線が交叉する。
「そ、そうね、たくさん入っているみたいだから均等に分けるのがいいかも。」
ヒカリが手をたたく。
「そうか、4人でわければ安くすむし。」
「なるほど。」
商品を離しながらあとの二人もうなずく。
全員笑顔をみせ、今度はまるで意気投合したように結局同じような箱も買ってしまった。
それが後に仇になるとは思いもよらず。
なにやら自分たちの学校のことや友達のこと、好きな人の話までしながら駅までいってそれぞれ別れた。

決戦の前日。
ヒカリはチョコをかわいい銀紙に添えながらふと視線を向ける。
それは先日買ったきれいな包装紙だ。
ヒカリのお気に入りである。
もう少しでチョコも出来上がる。
見栄えがよいように包む必要があるがそれも腕の見せ所、という感じでヒカリは楽しみにしている。
大輔がどんな表情で受け取ってくれるか楽しみだ。
もちろん喜んでくれるだろうが、付き合いはじめて初めて迎えるバレンタイン。
いつもとはちょっと違うと思うのだ。
ちなみに横では兄太一も奮闘している。
恋人で料理人のヤマトは甘いものは好きではないが実はお菓子作りも得意だったりする。
そんな相手だから気が抜けない。
気合が入っている。
ヒカリはそんな太一を見ながら微笑む。
さて完成してラッピングしようとヒカリが奮闘しているとその後ろで太一が指をくわえんばかりにみている。
「その紙きれいだな。」
「でしょ。お気に入りなんだ。」
なにせ4人で取り合いになったものであるから。
「1枚くれないかなー。」
「ええー。」
物欲しげな太一にヒカリは一度抗議の声を上げるが、次にため息をつくと仕方ないなあと太一に一枚譲る。
3枚あったので一枚くらいいいかと。
お互い一番の人ができてもやっぱりこの兄弟はお互いに甘いのである。
「サンキュー、ヒカリ」
太一が喜ぶ顔をみながら。
他の3人はどんなバレンタインを迎えるのかなとヒカリは思いを馳せた。

ミミは鼻歌を歌いながらチョコを作っている。
チョコにお気に入りの具を混ぜた自信作だ。
実はチョコにマヨネーズを混ぜたものを前に選ばれし子供たちに配った。しかし。
とんでもない組合せだと他の選ばれし子供たちは言ったが光子郎は恐る恐る食べて、その後笑って美味しいといってくれた。
最近は味覚が人並みから外れていることを自覚してきた。
そのときは多分光子郎のやさしさからくるのだろうと知った。
だけど。
今度は本当に美味しいといって欲しいと。
ミミは気合を入れる。
チョコを味見して、ミミはバッチリ!とうなずいていた。
メールばかりでやり取りしていた光子郎に久しぶりに会える。
ミミは期待に胸をときめかせていた。

パン屋の息子でかっこよくギルモンパンを作って見せるタカト。
見た目は頼りないがじつは器用なのだ。
自分の手作りチョコなんてタカトの手作りパンの足元にも及ばないかもしれないが。
人の好意をむげにするような無神経な少年ではない。
いつもののほほんさで、きっと喜んでもらえると思うのだ。
その時の表情を思い浮かべて思わず微笑み、留姫ははっとなって表情を引き締める。

泉はほっと息をつき今お気に入りの包装紙で包み終えた箱を置く。
隣には別の模様の箱が三つある。
チョコが好きな純平に合わせあの冒険をした他の男の子より分量が多い。
渡す時間違えないように箱の大きさも包装紙も別にしたのだ。
彼の好意は分かるし嫌ではない。
ただあの真直ぐな気持ちに答えるにはまだ戸惑いがある。
もう少し待って欲しい。でもあなたは少し特別なのだと深い意味を込めて。
泉は再び小さく息を吐いた。

バレンタイン当日。
休日の為近くの公園で待ち合わせた。
多分約束の時間までもう少し有るはずだ。
腕時計を見て軽く深呼吸すると手に持った箱を握りしめる。
彼にあった時なんと言って渡そうか、どんな反応をしてくれるだろうか、
そう思うと顔がにやけたり真剣になったりする。
つい一生懸命考えていて。
前への注意がおろそかになっていた。
「きゃっ。」
よろめき手の中のチョコも落としてしまった。
ゴメンナサイと相手に言って拾おうと手をのばして。
4人は固まる。
偶然4人がぶつかるかと言う突っ込みはなし。
だってギャグだから。
さてさて同じ大きさ、同じ包装の4つの箱。
4人はその箱をみてお互いの顔をみて笑顔を引きつらせた。
「えっと。」
留めと飾り用のシールまで同じだからさっぱり区別がつかない。
少し斜にとめちゃった気がする、あの箱だろうか?
たしか止めた位置があの辺りにあったからあの箱だろうか?など。
それぞれ軽く冷や汗をかきながら見比べる。
と。
タイミングが良いのか悪いのか。
「お待たせしました、ミミさん。」
「おっはよう、ヒカリちゃん♪」
「久しぶりだね。留姫。用事ってなあに?」
「おはよう泉ちゃん、良い天気だね。」
待人来たる。
「‥‥!」×4
固まる女の子達に。
男の子達も。
「?」×4
とんでもない。
渡したいのにそれがどの箱か分からないなんて。
思わず、女の子達は近いチョコを手にとり、ダッシュしていた。
「ご、ごめんなさい。」
逃げていく女の子達の背中を見送り唖然と立ちつくす男子陣。
「ミ、ミミさん?」
「ヒ、ヒカリちゃん。なんで?」
「あれ?留姫?追い駆けっコ?」
「泉ちゃ〜〜ん(涙)」
しかし、光子郎が一番に立ち直る。
「とりあえず追いかけましょう。」
「ああ。」
大輔がヒカリの去った方に足を向け、他のメンバーもそうだったと頷く。
「できればこの場所でお会いしましょう。その方が早く解決する気がします。」
何となく予想がついてしまった聡い光子郎がそう他の三人の背中に言い走っていく。
ここに誘導しろと言う事だと理解できる。
しかし他の三人は理由までは分からないが。
「?分かった。」
三人は首をかしげるも背中で答えて。
それぞれ待ち合わせの相手が去っていった方角に向けて走り出した。

ハッキリ言って昼の公園での鬼ごっこは周りには迷惑以外なにもない。
カップルの間を割って逃げ、子供がせっかく作ったトンネルを崩して泣かせてしまい、(謝るだけで立ち止まれず)
アイスを食べ歩きしている人にぶつかって落としたり、散歩中の母子にぶつかり赤ん坊を泣かせてしまったり。
「困った。」
ヒカリに追い付いているがどこを掴んで良いか分からない大輔は顔を上げて少しほっとする。
光子郎が言っていた待ち合わせ場所にちょうど入るところだった。
他のメンバーもちょうどついたようだ。
女子陣はお互いの顔を見て、体力がつきたのか座り込んだり、膝に手をあて息を整えている。
「はあはあ、落ち着いてください。皆さん。」(ちょっと息切れてます)
「ヒカリちゃん、大丈夫?」(ケロリ)
「あはは。留姫はやっぱり早いね。追いつけなかったや☆」(ケロリ2)
「ぜいぜい。い、泉ちゃーん。」(息も絶え絶え)
体力の違いが分かるセリフを男性陣は吐いています。
それは置いておいて。
光子郎は息を整え女子陣に問いかける。
「落ち着いてください。皆さん。今ここで逃げてもなんの解決にもならないどころかよけいに混乱しますよ。僕達にちゃんと訳を話して下さい。」
冷静な問いかけに女性陣は顔を見合わせ、たしかにその通りなのだが、とため息を吐くしかない。
しかしこのままでは今までの努力もトキメキも全て水の泡だ。
今日待ち合わせたのだから相手だって期待しているだろう。
覚悟を決めた。

「ああ、やっぱり‥。」
「あちゃー。これは。」
「そっかあ。(手をぽんと叩き)今日はバレンタインかあ。‥なるほどこれは見事だね。」
「うわあああっ。泉ちゃんのチョコはどれだああー?」
4つのほぼそっくりの箱に男子陣もため息をついた。
待ち合わせの場所でぶつかってどのチョコが誰のものか分からなくなったのだと目の前に出され。
追いかけっコの理由にも納得がいってしまった。
「これは参りましたね。」
「レントゲンにかける?あはは。どこでかけるかなー。」
「つうかレントゲンで分かるのか?」
「泉ちゃんのチョコだけは誰にも渡したくねー。」
いろいろ考え全員で意見をいう。
女子陣は渦中の人であるためか途方にくれ言葉もでない。
「しかし、適当に勘だけでは他の人のチョコをもらう可能性も高いわけだから‥。」
「4つある今持ち主をちゃんと見極めるために開けた方がよさそうですね。」
「ええーっ。」
女子陣から抗議の声。
「でも、じゃあ別の人に渡ってもいいの?」
「泉ちゃんのチョコが他の男に渡るなんて−。」
「オレもそれは嫌だ。」
「僕も今知り合った子より留姫のチョコがいいなぁ。」
女性陣う、と黙り込み。
なんでこんなことになったのか。
静かにロマンチックにチョコを渡すはずだったのに。
一同は座りやすい芝生の上に移動しチョコの披露会となってしまった。
天気がよく暖かいのが幸いの青空の下。
他の人たちの視線は取り合えず無視して。
「じゃあ、まずこれかな。」
ミミの持っていた箱をあける。
「あ、私のだわ。」
ヒカリが反応して受け取る。皆が冷やかす中照れて頭をかく大輔にチョコを渡す。
「えっと、口に合うか分からないけど。」
「手作りなの?ありがとう。」
二人でほのぼのしている。
そんな二人の反応を周りもほのぼのと見つつも、現実に帰り。
「さーて、次は。」
留姫が持っていたチョコをあける。
「あ、私の。」
泉が手を伸ばし留姫から受け取る。そして隣でちょっと固まる純平へ。
「はい。純平に合わせて甘めにしたつもり。量も他の奴らの二割増しだから。」
「泉ちゃんありがとう。」
じーんと感動している。
泉は純平の素直な反応に笑ってしまう。
やっぱりほのぼのの二人をおいて。
ヒカリが箱をあけると留姫が反応する。
「いらないかも知れないけど。」
タカトの前へ。
タカトはにっこりと笑う。
「なんで?いるよ。嬉しい!いつもありがとう留姫!」
タカトは手を伸ばし、受け取る。
留姫は軽くそっぽを向いて
「だったらあげないでもないわ。」
といい、タカトは気にしたふうでもなくうん。と頷く。
素直と素直ではない反応をする二人だからこそうまくいているのねと周りは思う。
「じゃあ、これは私のね。」
ミミが泉から箱を受け取る。
そのまま光子郎に渡そうとすると皆が私達はさらけものになったのに!と抗議する。
「うっ。仕方ないわね!ミミさんの超スペシャルチョコを公開よっ。光子郎君開けてみて?」
ミミが光子郎にチョコを渡し光子郎は軽く苦笑しながらあける。
「わあ、可愛い飾り付けね。」
女子達はきゃきゃっと可愛く反応する。
タカトと純平も感心したように見ている。
もらった光子郎と横で見る大輔、ヒカリはちょっと複雑だった。
「今回は特に自信があるの!ね!光子郎くん食べてみて。」
微笑まれて断れる恋人がどこにいよう。
「あ、はい。」
光子郎は覚悟して食べる。
しかしそのチョコは甘く口の中でとろけて。
「美味しいです。ミミさん。」
光子郎が笑い、ミミも嬉しそうに微笑んだ。
「へへへー。今回は中に梅干し入れていました。甘さと酸っぱさが合うのよ!」
ほのぼのしていた全員が固まる。
ちょうど口の中で溶けたチョコの変わりに感じた味に光子郎は硬直している。
「あれ?」
皆の反応に首をかしげるミミ。
「光子郎さん、お茶買ってきました‥‥。」
「す、すいません。」
気を利かせてお茶を買ってきた大輔から光子郎は半泣きで受け取る。
「おかしいなぁ。今回はばっちりと思ったのに。」
「い、いえ美味しいですよ。」
固まっていた周りもミミと光子郎の反応に我に返り、次に笑う。
結局こういう落ちなのね、と光子郎ががっくりと肩を落とした。

そのころ石田家では長男が照れた目の前の恋人にチョコをもらって微笑んでおり、
高石家の長男は、郵便で受け取ったチョコに初めは驚き次に微笑みを浮かべた。

それぞれ挨拶して別れながら。
たまには賑やかなバレンタインもいいなと思いつつ、来年はロマンチックにと女性陣はぐっと手を握りしめていた。

end




バレンタインネタです。
ちょっと話が長いかしら。 いっそのことシリーズ化してしまうかと3です。
オリキャラは今回めずらしくなし。
大輔がヒカリを追いかけ追い付いてもどこを掴んでいいかわからず困るってのと(たしか他の漫画か何かのパクリなのですが思い出せず。)
皆でわいわいチョコの披露をするのを思い付いて。
書いただけだったり。
本当は各カップルごとに超SSをかくつもりだったのをついでだ、えーいっってまとめました。
二月に書き上がらなかたけど来年まで置くのもどうよと思いアップ。
す、すいません。今6月ですが。
また書き替えたりするかも?


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