スイートばれんたいん2

今年もバレンタインの季節がやってきた。
ヒカリは、華やかに派手に、飾り付けられた店々のバレンタインの文字を見ながら町を歩く。

クラスの男子達が緊張し、女の子たちは、ほのかにはしゃぐ今日この頃。
ヒカリは、複雑な心境にあった。
中学に進級して、初めてのバレンタイン。
それは、何気ない、男子と大輔の話を聞いたことに始まる。

「今年もバレンタインだな。」
「何人からもらえるかな。大輔おまえは八神さんから義理チョコ1つかな。」
大輔のヒカリに対する明らかな態度に、毎年のことだがヒカリ以外にチョコをもらうことがない。
クラスの男子からいつも笑いのネタとされていた。
「うるせーなー。俺は、それでいいの。」
大輔が膨れて友人たちを軽くにらみつける。
しかし、ふと思い出したように空を見て、目線を戻す。
「あ、でも今年はもう一個もらえるかも。」
周りにいた男子たちは、ざわざわと騒ぐ。
「嘘だろー。大輔に限ってな。」
そういうと回りにいた男子たちは一様に頷いて見せた。
「お、おまえらなぁ。」
「誰から。」
ズバリ聞いた一人に、大輔は一度クラスメイトたちに目線をさまよわせ、
「それはいえないなぁ。」
呟く。
「なーんだ。やっぱり嘘か。」
「あのなぁ!…もういいよ。」
大輔は、クラスメイトたちから離れ教室のドアから廊下に出ようとする。
そしてドアの前にいたヒカリと鉢合わせしてしまった。
「あ、ヒカリちゃん。」
そして、はっとなる。
「あ、もしかして、今の聞いて…。」
ヒカリは、にっこりと笑う。
「よかったね。大輔君。チョコ貰えるんだ。」
「あ、違うんだ。その。」
慌てて、なぜか弁解しようとする大輔の隣を抜け、ヒカリは大輔の側を離れた。
「あああああ。」
力なく蹲った大輔の気配がしたが気が付かない振りをして。
大輔に追いついたクラスメイトが驚き声をかけるがそれが聞こえないくらい 大輔は落ち込んでしまっていた。

ここまでなら、大輔が話の中で勢いついて出任せを言った可能性もある。
しかし、この噂が構内を駆け巡ったとき、もうひとつの噂がでたのだ。
ヒカリのクラスメイトに、めぐりという少女がいる。
見た目、すらりと背が高く、ボーイッシュな感じで女子生徒たちから偉大な人気をえていた。
めぐりは、運動能力に優れ、陸上部で活躍している。
そして、期末テストでも上位10位に入る秀才タイプでもある。
優秀なら、性格が悪くて人を小ばかにするとか、見下すということもなく、 誰とでも親しく話す。
男子達とも冗談を言いあいながら、昼休み時間にはしゃいだりする。
生徒たちから慕われる少女だ。
多感で早熟な女子生徒たちのなかで、普通ならあの子があの男子生徒を好きらしいとか、
あの男子に告白して付き合っているらしいとか、話が出てくるものだ。
ところが、めぐり自身や周りにもそんな話題は沸いて出てくることがなかった。
しかし、女子生徒たちが、華やかにバレンタインの話で盛り上がっていたとき、 ふと話の輪にいた、めぐりがチョコをあげたい人がいる、と呟いたのだ。

人気のある生徒の噂は特に広がりが早い。
そして、めぐりの噂は構内に駆け巡っていった。
誰にあげるのか、相手は知っているのか、すでに付き合っているのか。
生徒たちは、噂をしあう。
ふと生徒たちはもうひとつの噂を思い出す。
大輔の何気ない一言から、誤解を生んで想い人に振られたらしいという笑い話でしかなかった噂だ。
まさか相手は大輔ではないかと誰かがいい、まさかと笑いながらもほかの生徒たちも
愕然としたのだった。
その噂は尾ひれをつけながら広がっていく。

めぐりに直接聞いた生徒がいた。
しかし、めぐりは面白そうに笑って、否定も肯定もしなかった。
では、大輔は、ということで大輔に聞いた生徒もいたが、大輔ははじめは機嫌がよくても
バレンタインの話になると、途端に不機嫌になり、だんまりを決めるのだ。

いったいめぐりは誰にチョコを渡すのか、
チョコを受け取る果報者はだれか。


生徒達は、謎に想像を巡らせながらバレンタインの時を待っている。

「ああ、今年のバレンタインは誰にもあげないことにしようかなぁ。」
ヒカリがぽつりと呟く。
呟いた相手は京だ。
ここは、パソコン部の部室。
部員は多いが出て来るものはほとんどいない。
つまり幽霊部員でほとんど構成された部なのだ。
一応ヒカリもタケルもパソコン部部員で、ほとんど京とヒカリがいて話をだらだらしている。
部長になった光子郎は今日は私用で来る事はなく、タケルも時々来るくらいなのだ。
「ええーっ。」
ちょうどチョコで何をあげるか話していた京が反論する。
「せっかくのバレンタインなのにーー。寂しいじゃないっ。」
「どうせ本命はお兄ちゃんだけだし。」
「あのね、そうじゃなくて。」
京は拳を握り、そして上にあげる。
「せっかくの楽しい一年に一度のイベントなんだから盛り上がらなくてどうするのよっ。」
京としては、お祭り騒ぎの一つなのだ。バレンタインは。
指を加えて黙っているなんて我慢ならない。
ヒカリもつられて毎年選ばれし子供たちで男子諸君にチョコを渡していたのだが。
かなわないと分かりつつお互い本当に好きな相手にも義理といって。
ひとり盛り上がる京の拳を避けつつ、ヒカリは小さくため息をつく。
「なんだか、空しくなっちゃって。」
好きな人に思いを伝える特別な日なのだから。
毎年恒例行事だからと騒いでいたが、結局気楽なものだ。
いったい何人の少女が勇気を振り絞って告白し何人の少女が幸せを掴むのか。
いろんなドラマが展開されるに違いない。
今年は大輔とめぐりも?
それならば。
変にチョコを渡しても、滑稽なだけだ。
「そりゃ、ヒカリちゃんがそういうなら無理強いはしないけど。」
京の残念そうな声に、ヒカリは決心をして、頷いた。


「おい、小谷。いいのかよ。すげえ騒ぎだぜ。」
「ふふん。いいじゃない。うれしい?」
ちょうど練習の終わった、陸上部とサッカー部。
大輔とめぐりは、着替えを終えて話している。
部室の近く、樹があってあまり目立たないところだ。
「嬉しいわけないだろ‥。」
睨み付けた大輔にめぐりは笑ってみせる。
「どうせこんなうわさ、すぐに消えるから‥。」
めぐりは目を伏せ寂しそうに笑う。
大輔は戸惑い、そして頷いて赤くなっていく空を見上げた。

デパートで、ヒカリは兄へのチョコを選ぶ。
甘いものが好きな兄はどれでも喜んで受け取ってくれるだろう。
鮮やかに飾られたディスプレイの中にところ狭しと並べられたチョコの中から、 ヒカリは、最近の兄の嗜好も考え、選びだした。
ふと義理チョココーナーが目に入る。
いつもならここで選ばれしメンバーのチョコも選ぶ事になるのだろうが、 ヒカリは目をそらせて、レジに向かった。

バレンタイン当日。
あちらこちらでチョコレートの受け渡しが行われている。
幸せなものから事務的なもの、非想そうなものもある。
生徒達からめぐりはさり気なく注目を受けていた。
休み時間など、見失わないように皆の目線を受けている。
ヒカリはなるべく気にとめないようにしていた。
丁度めぐりとヒカリが担任に用事を頼まれて教務室に向かう。
プリントを何種類か受け取り、教室に戻る過程で。
めぐりは、苦笑を浮かべてみせた。
「なんだか、こういう風に注目されるって変な感じね。」
ヒカリは無邪気に笑ってみせる。
「それは、このイベントの一番の感心ごとだとおもうよ?」
ヒカリの言葉にめぐりは頷く。
「大袈裟だなぁ。まあ、本当に一大イベントだし、この勢いでがんばるつもりだけど。どうなるかな。」
不安そうにめぐりはみえる。ヒカリは人気があって自信に満ちためぐりのふつうの女の子の側面を見た気がした。
「本当にあげるんだ。」
誰にという言葉は飲み込む。
めぐりもいいたく無さそうだし、それを聞けるほど仲も良くない。
「うん。ちょっと緊張してきたなぁ。」
「小谷さんなら大丈夫だよ。」
ヒカリはちりっと胸に痛みを覚えたが無視して笑ってみせた。

昼休み、ふとクラスメイトたちが目を放した隙に、めぐりの姿がかき消えたことに気がつく。
しまったと騒ぐ生徒達にヒカリは無意識的に大輔の姿を探す。
さっきまで話をしていた大輔がいない。
めぐりや大輔を探そうとクラスメイトたちが騒ぎだす。
閑散としてきた教室。
何人か残っているが、これなら目立たないかなとヒカリもこっそり大輔を探しに行こうとする。
と、慌てたクラスメイトが1人戻ってきた。
「どうだった?」
聞く生徒達にその生徒は首を振る。
「いや、そうじゃなくて。とんでもないこと聞いたんだ。」
生徒達はきょとんとする。その生徒は息を整えると叫んだ。

「小谷が転校するらしい。登校するのは明日までだってさ。」

生徒達はざわざわと騒ぎ出す。
ヒカリは息を飲む。
少し寂しそうに、不安そうにしていたのは、そのためだったのかと。
転校する前に、結果はどうであれ、想いを告げようとしたのだろうと。
気を取り直して二人を探すべく、ヒカリはそっと教室を出た。

だいたい二人が好みそうなところを検討をつけて探すが見つからない。
ヒカリはため息をつく。
二人がどうなろうと気にしなくて良い。
自分は兄がいちばん好きなのだから。
そう思いつつも足は止まらない。
途方にくれて見上げた空に制服の緑が見えて。
屋上。
ヒカリは足を階段に向ける。
確かにこの寒い中、あまり行く人はいないから、告白には良いところだろう。
静かに階段を上がりきり屋上に出ると、風が吹き抜ける。
少し先の手すりの側で話す大輔とめぐりをヒカリは見つけた。
風にのって二人の話が聞こえてきた。
「今までありがとう。」
「ん。まあ、できる事はしたかな。あとは小谷次第だろう。」
告白とは少し違う会話にヒカリはそっと首をかしげる。
「そうだね。」
「あ、もう少ししたらあいつ来るはずだから。おれ行くわ。」
「サンキュー、あ、本宮。」
呼ばれて振り向いた大輔にめぐりはチョコを投げる。
よくある板チョコだ。
「お礼に約束通り義理チョコ。」
「‥‥。」
受け取りながら大輔はため息をつく。
「ま、チロルチョコより良いか。一応サンキュー。」
昇降口に向かった大輔はぎょっとなる。
ヒカリが立っていたからだ。
「八神さん?」
めぐりもきょとんとしている。
「大輔。こんなところに呼び出して。話ってなんだ?」
そこに男子生徒が出入り口より入ってくる。
ヒカリはその男子が大輔と仲良くしている子だと気がつく。
「あれ?八神さん?小谷?」
その男子もきょとんとしてみせたが、めぐりはふと表情を引き締めた。
「正確にはオレじゃないんだな。ま、頑張れ。」
大輔はその少年の背中を押すと、昇降口から校舎にはいる。
ヒカリもはっとなり大輔を追った。
「上手く行くと良いなー。」
戸惑い向かいあう二人を遠く見ながら大輔は呟く。
ヒカリは同じく見守りながら大輔に声をかけようとして。
「あ、ここだ!ここで見たらしいぞ!」
何人かの生徒が階段を上がって来るのが見える。
「わ、やべ。ヒカリちゃんそっち締めて。」
はっとなったヒカリは大輔と一緒に少し重い昇降口のドアを閉める。
「あー!!大輔何してるんだ?」
「八神さんなんでー?!」
「わーっ!!お前ら落ち着け。」
興奮した生徒達と大輔、ヒカリはしばし揉み合うこととなる。

生徒達はめぐりの告白相手を知るとそれで納得したらしく落ち着いて、それぞれ教室に向かった。
めぐりのクラスメイト達も、告白の場面を覗きみる不粋な生徒はいなくて教室に向かう。
「だから、偶然小谷の好きなやつを知ってしまって。成りゆきで協力する事になったんだ。」
戻ると詳細を知りたがったクラスメイト達に大輔はため息をつきながら話す。
めぐりの好きな相手が大輔と同じサッカー部で仲が良く、さり気なく話す機会など取持っていたのだと。
お台場中学は2つの小学校から来ている生徒が主で、めぐりも相手も同じ小学校出身だったが、顔見知り程度で
接点がほとんどなかったから。
転校する前に少しでも好きな人と関わりたかったらしい。
「本当の事を話すと、オレ、単純だから転校の事も話しそうになるから、黙っているしかなかったんだ。」
「チョコは?」
聞いてきたクラスメイトの一人に、大輔は何度目かのため息をつく。
「冗談に決まっているだろう。協力するからせめて義理チョコでも貰わねーと割にあわないって、いったら
小谷も冗談にノッて、じゃあ、チロルチョコでもって。」
その冗談を大輔が曖昧に話したため、いつの間にか大きなうわさになってしまったのだ。
「なーんだ。そうか、良かった良かった。」
男子達は納得したように深く頷く。
なにがだよ、おい、と大輔は男子達に突っ込んでみせる。
「それに、オレが本当に欲しいのは一人だけなんだけよなぁ。義理でも。」
ぼそりと呟き大輔はちらりとヒカリを見る。
ヒカリは微かに頬を染めて目をそらしてしまう。
相変わらずの一方方向的な大輔のラブラブっぷりにクラスメイト達は呆れて離れて行く。
話を聞いて納得したのもあるのだろう。
そして、告白を終えたらしいめぐりが帰ってきて、教室は再び賑やかになったのだった。


放課後いつもどおりパソコン部で京とお喋りをして、帰る前に忘れ物に気がついて、ヒカリは教室に寄る。
誰もいないと思っていた教室にはめぐりが一人立っていた。
「あれ、八神さんどうしたの?」
窓から外を眺めていたらしく、振り向いてめぐりは微笑みを向けてきた。
「うん。忘れ物を取りにきたの。小谷さんは?」
ノートを机のなかから取り出し鞄になおしたヒカリはめぐりの側に立つ。
「んー。ちょっと浸っていました。」
明日この学校を去る事になるめぐり。学校と別れを惜しんでいたようだ。
入学して1年と経たないが、めぐりにとっては思い出がつまった場所なのだろう。
つられてしんみりと校舎を見ていたヒカリにめぐりは声をかける。
「いろいろと騒がしてごめんね。安心した?」
含み笑いを浮かべつついうめぐりにヒカリは少し赤くなる。
「少し……。」
この気持ちは本当。
「本宮にはチョコあげたの?」
無邪気に聞くめぐりにヒカリは困った表情を向ける。
「あ、今年は‥‥。」
「え?」
めぐりもつられて困った表情になる。
「私のせい?」
「え、そんなことないよ。何となく。」
「毎年貰っていたから本宮楽しみにしているみたいだったけど。可哀想だな。」
ヒカリは話題を逸らせるため、聞きかえす。
「小谷さんはどうだったの?」
昼休み時間、結果を聞いたクラスメイトには分からないといっていたのだ。
「うん。取りあえずチョコは受け取ってもらえたし、お返ししないといけないから連絡先また教えろって
言ってくれたから、期待していいかなって思っている。」
笑っていうめぐりにヒカリも純粋に嬉しくて微笑む。
「そう、良かったね。」
「うん。ありがとう。好きっていう思いを伝えられて良かった。」
微笑みを深くするめぐりをうらやましく思いながらヒカリはその笑顔をみていたのだった。

うれしそうに自分を呼ぶ声。
向けてくれる笑顔。
幼馴染みで、友達で、仲間で。
好きだと体全体で表現して来る彼を迷惑だとか、嫌いだと思った事はない。 まだ、心を捕らえているのは別の人だけど。 大切な人。
それだけは言える。


ヒカリは閉店まぎわのデパートに駆け込み、チョコレートを一つ買った。
何度か足を運んだ本宮家の玄関の前に立つ。
ヒカリは勇気をだして、インターフォンを鳴らす。
対応にでたのは丁度大輔だった。
ヒカリの声を聞くないなや、慌ててドアを開けて出てくる。
「ヒカリちゃんどうしたの?デジタルワールドになにか‥‥。」
そういえば、普通に遊びに来たりしないから‥。大輔は勘違いをしているようだ。
ヒカリは、苦笑を浮かべチョコを差し出した。
「義理だけど。貰って?」
大輔の驚いた表情が、次に嬉しそうな笑顔に変わる。


恋愛の好きを伝えることは出来ないけど。
せめて伝えられたら。
ずっと好きでいてくれてありがとうと。

fin




バレンタインネタです。
1ヶ月考えたけど題名が浮かばず2などとつけてしまいました。
オリキャラでばっているし。
また書き替えたりするかも?

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