導く瞳

その少女の世界は狭かった。
きっと1歩踏み出せば、もっと感動したり、驚くような世界が君の目の前に開けるだろう。

太一はテスト明けに、顧問の都合で部活が休みになったため、暇を弄んでいた。
ふと、いつも自分を尊敬してくれる、少しこそばゆいと感じる少年の顔が浮かび、
自然に足が向かう。
確か今日はゲートを潜る予定はないはずだから。
2年前まで当たり前のように通っていた小学校が見えてくる。
新しい部分と、なじみの部分を見せる校舎を抜けグランドをのぞく。
元気に走り回る少年達が見える。
その中に大輔が見えた。元気に仲間と声をかけあっている。
その大輔がふとこちらをみる。
「あ、太一先輩だ!」
あ、もう気がついた。相変わらず集中力ないな。
ほら、ボールが明後日の方向にいってるぞ。
心の中の突っ込みには気付くはずもない大輔がこれこそ、しっぽを振らんばかりに走りよってきた。
チームメイトの何人が大輔に苦情を漏らすが太一の姿をみて、はじめは驚くが、近寄ってくる。
「先輩ひさしぶりです。」
彼等にとっては、卒業してもまだ太一は憧れの対象なのだろう。
サッカークラブの顧問も懐かしがりよってくる。
けっきょくそのまま後輩達とサッカーを楽しむこととなった。
練習が終わり、解散となる。家が隣同士にある大輔と太一は当然同じ帰り道で、
一緒に帰ることになる。
学校のこと、サッカーのこと楽しく話しているが合間に大輔が寂しいような表情をのぞかせることに気が付いた。
「大輔?どうかしたのか?」
太一には打算とかなくストレートになんでも物事をはっきりしたがる。
大輔は、そんな太一が分かるので、一瞬黙り込む。
しかし、きっと見透かされているのだろうとも思い、自分の思いを話すことにした。
「なんだか、俺、一人だけ空回りしているというか。情けなくて。」
「情けない?」
「だって、先輩から聞いていたデジタルワールドに行くことができて。凄く嬉しいんだけど。 選ばれし子供として選ばれたのに、俺だけ相応しくない気がして。」
大輔ははじめは太一の方を見ていたがだんだん目線をそらしていく。
犬がしっぽをたらしてしゅんとしているようだなと太一は思う。
「だれがそんなこと言ったんだよ。誰だ?」
「いいえ、誰も、でも。」
「でもじゃないだろ。お前、肩のチカラいれ過ぎ。」
ポンと肩をたたく。まだ小さい肩。多分予想していなかった太一の行動に大輔は一瞬よろけ、立ち直る。
「お前まさか、俺が敵をすべてやっつけたと思ってないか。」
「ちがうんですか?!!」
大輔の反応にがっくりくる。この少年は自分にどんなイメージを持っているのか。
「あのなぁ。」
太一はコホンと一度咳払いをする。
「デジタルワールドの歪みを戻してこっちの世界もデジタルワールドも守れたのは、
仲間を信じて、助け合ってきたからだと思っているぜ。空とか、光子郎とか、丈とか‥。」
言わなかったけど、脳裏に浮かべる青い瞳の持ち主。思わず笑みがもれる。
大輔は雰囲気から太一の言いたいことが分かったようだ。うなずきを返す。
しかし、まだ納得できないところもあるようだ。首を傾げている。
「頼ったり、任せてみるのもいいんだぜ。全ての事を完璧にやろう思い込むのはお前も、
他のやつらもつらいもんだぜ。」
「辛い‥。」
「ああ。」
「そうですか。」
「そうだって!」
もう一度大輔の今度は背中を軽く叩いた。
大輔は激励の合図ととったのか、頷くと少し笑う。
「お前のそばには心強い味方が4人いるんだ。いつもな。」
「はい。」
「それにお前だからこそ変わったこともあるんだからなぁ。」
「え?」
大輔がきょとんとして太一の顔をみる。
「感謝しているんだぜ。」

ヒカリは小さいころから、人に見えないものをよく見ていたらしい。
鈍い太一はそんな世界に無縁でどちらかというと弾き飛ばす性質かもしれない。
そんな妹の苦しみは全て理解できなかった。
反面太一が現実と異質なものを断ち切る存在であったのも確かで。
そばにいることが多かった。
背中から恐る恐るみる世界。狭かったに違いない。
学校から帰って二人でいても話すのは太一の方が多くてヒカリは楽しそうに大人しく聞いている 事が多かった。
だけど、大輔と同じクラスになって、元気な大輔にかき回されはじめると、少しずつ、自分のことも話すようになってきた。
今では毎日学校の事、デジタルワールドであったことを楽しそうに話してくれる。
その中に出てくる名前は大輔が大半を占めることに最近気が付いた。
まだ、友だちで仲間というイメージしかないようだが。
ヒカリの世界が広がってきたのは確かだ。
ふと気がつくと感じた気配が背中にないのは少し寂しい気もするけど‥。

「え?え?先輩なんですか???」
話の続きを聞きたくてじゃれてくる大輔に思わず笑みがもれる太一。
「いやー俺が今言っても意味ない気がするしなぁ。」
「えー?なんですか?教えてくださいよう。」
「そのうちなー。」
「ええええ。そりゃないっす!」
「あーうるさいうるさい。」
大輔の髪をかき回すと大輔が笑った。
何とかしたいと思っていたことを無邪気に自然にやってのけたのが自分でなく、大輔であったのが少し悔しくもあり、かき回す腕に力を込めたが大輔はそんな太一の気持ちに気がつかず無邪気に歓声をあげている。
太一は大輔の気持ちがいくらか浮上したらしいと感じ少しほっとしながら家への道のりをゆっくりあるいていった。

少女は新しい世界に足を踏み出した。
大切な存在になるであろう仲間達と肩を並べて。
多分少女の隣で肩を並べているであろう少年。
そんな彼等を見守り時に励ましていく立場になった自分を面白いと感じる太一である。

end




太一さん視点大ヒカ。太一さん大輔への応援歌(違う)。時期的にはカイザー撃退前ということで。

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