シマシマ

期末テストも終わり生徒たちがほっと一息をつく12月。
あとは楽しい冬休みが待っている。
当然楽しみが目白押しなので生徒たちは小さく浮かれつつある。
ヒカリはそんな中気持ちの良くない光景をよく目撃するようになる。
大輔が女子に呼ばれてどこかへいく所を良く見るようになったのだ。
帰ってきた大輔に告白?とクラスメイトたちがからかう。
大輔はウルセエなど言ってはぐらかすが、その表情はしばらく面白く無さそうにしている。
ヒカリがさり気なくみていてそれだけが救いだ。
告白されたとはしゃいでいればこちらの精神がもたない。
この最近の出来事。
ヒカリは分からないでもない。
大輔はこの二学期けっこう目立っていたのだ。
体育祭では応援団員で目立っていたし、文化祭でもあのウサギ姿はかなり好評だったようだ。
王子タケルと騎士の大輔と言われていると京から聞いた事もある。
京は似合わないと爆笑だったが。
もともと話しやすい性格の大輔だ、不器用で何気ない優しさもある。
だから最近女子の間で話題に出る事も多かった。
遠くや近くで見て恋に落ちる少女も多いのだろう。
ヒカリの落ち着かない日々は続く。
夏からヒカリの大輔への気持ちは変わってきていた。
好きだと思う。
告白しようかと思う事もあるが無邪気な大輔をみているとなんとなく言いそびれてしまっていた。
それはさらに焦りを呼ぶ。



ヒカリは誰もいないリビングでソファーにもたれため息をつく。
しかし、ちょうど帰ってきた太一に聞かれたようで兄は笑う。
「おお、どうしたヒカリ。恋の悩みか?」
からかうように聞いた太一にヒカリは太一の顔も見ず、うん。と頷く。
「そうか、そうか、恋の悩みか。って、え。」
あっさりな答えに信じられないとヒカリを見る太一に、ヒカリはむっとしてみせる。
「なに?」
「そうか、ヒカリが恋か。いつもオレの後ろばかりついてきていたのになあ。」
「お兄ちゃん、父親みたいな、年寄りみたいな言い方止めてよ。」
肩を落とす太一にヒカリはため息を落としいう。
太一はヒカリの冷たい言い方に今度は笑って肩をすくめた。
複雑な兄心なのである。
ふとヒカリは兄の顔を見る。
あの容姿にバンド活動を続け、女性に人気のある人を恋人にもつ太一ならヒカリの苛つきはわかるだろうから。
「お兄ちゃん、ヤマトさんってモテルよね。恋人としてはどう?」
「へ?そうだな。やっぱりバンドのファンの子なんかに囲まれているといい気持ちはしないな。でも。」
でも?とヒカリが首をかしげると太一は自分をぐっと親指で指ししめし、
「オレだけしか愛さないって分かっているから心配してないな!」
ヒカリは一度口を開け、ため息をついてハイハイと頷く。 夏の事件以来二人の絆はさらに深まったようで、聞いた方が抜けていたということだ。
「最近大輔モテテいるらしいな。ヒカリとしては複雑だなぁ。」
太一はヒヒヒと笑う。
「う。」
「言う事はちゃんと言わないと誰かに先を越されるかも知れないな。」
「それは。分かっている。でもなんだか。」
太一が首をかしげる。
「今の心地よさが変わるのが恐い。」
ヒカリが困惑していうと太一は笑う。
「変わらないさ、大輔もヒカリも。」
「そうかな。」
「ああ。成長はしても本質は。」
そういえばと太一は笑う。
「前のデジタルワールドに光はなかったんだよな。」
前の戦いの時太一は自分達の前の選ばれし子供達にもアクセスをとっていた。
その後も交流があり、いろいろ情報や意見を交換しているらしい。
「そうなの?」
「デジタルワールドがバランスを取るために作った存在らしい。」
勇気の象徴は炎や太陽など象徴としては強い力を示す。
しかしそれは反面己をも滅ぼす可能性がある。
そこで光を作る。
光は生や安らぎの象徴。
勇気を癒し、支える。
たぶん友情に対する希望も同じ意図で関係するのだろう。
「そうなんだ?」
「ああ。だけど。」
太一には友情の象徴ヤマトがいる。
では、光と希望の意味は。
「オレ達の戦いの時はまだ本格的に力が発揮されていなかったんだろう。」
だから希望や光は潜在能力はあっても、戦力にはならなかった。
光を作ったデジタルワールドも光の本質や意味を戦いの中で見守っていた段階かもしれない。
「本格的に力が発揮されたのはお前たちが新しい選ばれし子供達として戦うようになってからだろうな。」
太一はそこで苦笑する。
「って光子郎達の受け売りだけど。でも。」
ヒカリが首をかしげると太一はヒカリを見て笑う。
「大輔が選ばれし子供として戦うようになった時、理屈じゃなくて、何となくああ、そうかって分かった。」
「お兄ちゃん。」
「本当の関係は大輔とヒカリが持っていくモンだろうなと。オレじゃなくて。きっとこれからも。」
やっぱり寂しいと太一は笑う。
ヒカリは目を閉じ思う。
太一の言う事が本当ならいいのに。勇気と光が、大輔とヒカリに本当にそんな絆があればいいのにと。


ヒカリの望む気持ちを嘲笑うかのように。
次の日。
ヒカリは偶然、大輔への告白シーンを目撃する。
人通りの少ない裏庭。
しかし本当に偶然にヒカリは教員に呼ばれ裏庭の先の特別教室に教材を取りに行く所だった。 何人かの少女に囲まれて大輔は困惑していた。
その対面に一人の少女が真剣な面持ちで立っている。
いわゆる優等生グループの一人。
目出つ少女ではなかったが、堅実さが他の生徒達に認められていて好かれていた。
多分その少女の為に友人達が応援に駆け付けている図なのだろう。
「私、本宮君が好きなの。よかったら付き合って下さい。」
大輔は空を見る。
「えっと、気持ちは嬉しいんだけどオレ、他に好きな子がいるから。」
「八神さん?」
「まあ、バレバレだけど。」
素早い指摘に大輔はハハハと笑う。
「小学校の時から好きっていっても何も答えてくれないんでしょ?」
「う。」
「それって希望ないんじゃ?」
まわりの少女達も冷たく答える。
「八神さんていつも微笑んでばかりで自分じゃなにもしないのよね。はっきりしないっていうか。」
「たしかに可愛いタイプだけど、何もしないお姫さまって感じ。」
「もうそんな年じゃないでしょうにね。」
さすがに大輔はむっとする。
「そこまで言う事ないだろう。」
少女達を睨む。
「第一ハッキリしないのはオレがちゃんとヒカリちゃんに告白してないせいもあるから。」
「なぜ?」
大輔の睨みに首をすくめながらも少女達は尋ねる。
「うーん。なんだか、今の関係をヒカリちゃんは崩したくないみたいだから。告白したら終わりそうなんだ。恐いだろ?」
誰だって同じはずだと大輔。
でもそれを乗り越えて告白する子もいるのだと、その勇気はどうなるのだと少女達の主張。 「‥気持ちは嬉しいけどオレ今はヒカリちゃん以外好きになれそうにないから。」
「だったらいっその事八神さんに告白して関係が壊れてしまえばいいのに。」
「うわ、そこまで言うか。」
しかし大輔は何か考えるように一瞬遠くを見る。
しかし目線を告白した少女に戻し、
「とにかく悪いけど。ゴメン。」
はっきり断り立ち去ろうとする大輔。ふと立ち止まる。
「ヒカリちゃんの事だけど。」
なに?と少女達。
「オレ、ヒカリちゃんの事お姫さまなんて思っちゃいないよ。多分ヒカリちゃんがその気になれば悪い事をしてでも自分のやり遂げたい事をやり遂げる女の子だと思う。」
「なにいっているのよ。そんな子じゃないでしょう。」
少女達のつぶやきが12月の風に吹かれて流されていく。
ヒカリは少女達の視線に入らないようにそっと教室に向かった。


次の日。
ヒカリは一人の少女に話があるからと、呼ばれて付いて行く。
何人かの少女が待っていてその中に昨日大輔に告白していた少女がいて驚く。
昨日大輔が告白されていた裏庭だった。
「急に呼び出してごめんなさい。八神さんに聞きたい事があるの。」
「なに?」
ヒカリは少し緊張して答える。
「本宮の事だけど。」
いきなり直球だ。ヒカリはぐっと息を飲む。
「八神さんて本宮の事どう思っているの?」
「どうって。」
「八神さんほかに好きな人がいるって聞いたんだけど。」
ヒカリはそんなこといったかと思ったがふと思い出す。
久美に以前そんな話をしたかも知れない。でも前の事だ。
「それは。」
「お願い。もし本宮君を好きでないのならはっきり彼に言ってほしい。」
「彼を縛り付けないで」
「本宮君がフリーになれば、私達に希望が持てるから。」
ヒカリは少女達を睨み付ける。
中程にいる少女達二、三人が大輔を思う子達で周りの少女達はやはり助太刀だろう。
中心の少女達を睨み付ける。
大人数でヒカリを責め立てるそのやり方が汚いではないか。
「私大輔君を嫌いなんて言ってない。」
少女達がざわっと騒ぐ。
「もしかして、好きだったりする?」
「好きよ。」
だったらなぜ大輔にそう言わないのか、彼を振り回すのか。少女達はヒカリを責める。
「彼が空回りするのを楽しんでいるの?そうだったら最低。」
「そんなわけではないけど。」
「なに?」
「告白してもし二人付き合ってなんて想像付かないしどう接していけばいいか分からない。」
それならばいっそ今のままで。
「意気地なし。」
「最低ね。」
「八神さんがそのままでいいのなら私達にも考えがあるわ。」
「何言っているの?」
「そのまま見ていればいい。やっぱり何もしないお姫さまなんだわ。」
そういって笑って少女達は去っていく。
ヒカリは誰もいない裏庭で唇を噛む。
空は灰色の雲が広がっている。


少女達のする事は姑息的だった。
大輔に無邪気に話し掛けたり差し入れをしたり。
とくに食べ盛りの大輔に食べ物の差し入れは効果的で大輔は喜び、少女達と話す姿を見るようになった。
今までとは違う。
大輔の周りに彼を認める人が集まりはじめたのだ。
ヒカリだけが彼の良いところを知っていた頃と違うのだ。
「言う事はちゃんと言わないと誰かに先を越されるかも知れないな。」
太一の声が蘇る。
少女達がいなければいいのにとヒカリは思ってしまった。
そうすればこんな嫌な思いをしなくても済むのにと。


事件はそのあとすぐ起きたらしい。
ヒカリは翌日知ったのだが大輔に言い寄る少女が一人行方不明になったらしかった。
切れたノートを買いに行くと言ってコンビニに行く途中で行方不明になったのだと。
中学では密かに騒がれたが、一日では事件に巻き込まれたのか、本人の意志なのか分からない。
警察も見守り学校側も生徒達に他言しないよう吹聴しないようたしなめる程度だった。
そしてその夜。
ヒカリは夢を見る。
ヒカリに向かって優しくささやく。
あの子達が邪魔?
邪魔だなんて、とヒカリは首をかしげる。
大丈夫、私が良いようにしてあげるから。
くすくすと笑う声が響いてヒカリはそれを問いかけようとして目が覚めた。
汗をかいて動悸が打っていた。
夢だよね。
ヒカリは息を整えながら起き上がった。
しかし、学校に来た時、さらに二人の少女が消えたと生徒達が騒いでいる。
ヒカリはああ、と目を閉じた。
警察も捜査に乗り出し学校側も青ざめた。
急遽教員達が集まり話しあわれ、休校になる事になった。
本当なら明日は終業式であったが一日早まる。
校長と担任とに勝手に一人で出歩かないよう事件に巻き込まれないようにと言い含められてホームルームは終わった。
一日早くなれば嬉しいが事件の事もあり生徒達は複雑な表情で学校を出る。
ヒカリは気分が良くない。
つい最近対峙した少女達が急に消えるなんて。
そしてあの夢は。
とぼとぼと玄関で靴を履き替え外に出る。
吹き付ける風にヒカリは首を竦める。
さらに舞う雪を見てヒカリはため息を付いた。
少し歩いたところで大輔が雪を見上げて立っている事に気が付く。
ヒカリは足音をことさらたてるようにして近付く。
「大輔君、そのまま立っていたら雪だるまになっちゃうよ‥。」
ヒカリが言うと大輔は笑ってヒカリを見る。
「いや、行方不明になっていた子達が寒がっていなければいいなって。」
大輔が本気で心配してるのが分かってヒカリは悔しい気持ちになる。
「心配だね。」
「うん。」
「行方不明の子達の中に好きな子がいるの?」
大輔はヒカリをまじまじと見る。
「なんで?なんでヒカリちゃんがそういうこというかな。」
「え、だって。」
「オレは純粋に行方不明になった子達を心配しているのに。ヒカリちゃんは心配じゃないの?」
「心配だよ。もちろん。」
「オレもヒカリちゃんと同じように心配しているの。それ以外何もないよ。」
大輔は唇を尖らせてぼやく。
「大輔君‥。」
ヒカリは大輔に夢の事を相談する事にした。
「もしかして私その事件に関わっているかも。」
大輔がまたまじまじとヒカリを見る。
詳細をすこし端折ってヒカリは夢の事を話した。
さすがに大輔に言い寄る子達が邪魔と思ったら夢で出た人が本当に消してくれたなんて言えない。
「そうか予知夢みたいなものかな。太一さんや光子郎さんに相談してみるかな。」
「う、うん。」
そのまま八神家に寄るつもりなのかヒカリと同じ方向に足を向ける。
「そういえばヒカリちゃん。さっきのってちょっと嫉妬っぽい?」
ヒカリが止まって下をむいたので大輔も驚いて止まる。
「ヒ、ヒカリちゃん?」
「違う、違うよ。」
否定するヒカリの顔は苦しそうにしていて。 「ごめん。怒った?」
「ううん。違う。こんな私で呆れちゃうでしょ?」
「なんで呆れるんだよ。オレとしては嬉しいんだけど。」
ヒカリは大輔を見る。
「嫉妬いっぱいの私が?かっこわるいよ。」
「ヒカリちゃん。」
大輔はヒカリに向き合う。
「あんな夢をみたりして。もしかしてあの子達が行方不明になったの、私も関係あるかも。気持ち悪いでしょ?」
ヒカリは大輔に一気に話していた。
「ヒカリちゃん。待ってくれ。どうしたの?」
ヒカリは首を振る。
「オレ、ヒカリちゃんのすべてを含めて好きなんだけど。」
そこまでいって大輔はあ、と口に手を当てた。
「大輔君。」
告白シーン、たくさんの生徒達が帰る道すがら。
しかし生徒達は二人の関係を知っているので見てもいつもの事だから、と冷やかす事なく通り過ぎていく。
ああ、言ってしまった。大輔はそうぼやきながらももう一度ヒカリをみる。
「オレが好きなのはヒカリちゃんなんだ。」
ヒカリは嬉しさと恥ずかしさが混じってまた首を振ってしまう。
ヒカリの動揺に大輔はヒカリに手を触れようとして挙げたがどこに触れていいのかわからずおろおろしている。
「今の私は大輔君にあった私じゃない。」
「ヒカリちゃん?」
「勇気を支える光じゃない。」
「勇気?紋章のことか、関係ないよ。」
「今の私じゃ大輔君に返事をかえせない。」
「だったらいつなんだろう。」
大輔は手をおろす。
「オレ、いったいなんだろうな?」
大輔は低く呟く。
ヒカリは顔をあげる。
悲しそうな顔をする大輔。それがだんだん無表情に変わる。
実は大輔はあまり怒らない。
しかし怒った時は声が低くなりなかなかさめないのだ。
「大輔君。私。」
「今日は帰る。ヒカリちゃんも気をつけて。」
無表情で大輔はヒカリを置いて立ち去ってしまった。


その夜ヒカリはなかなか眠れなかった。
大輔に誤解を与えてしまったことが悔しかった。
自分なりに気持ちをまとめて明日謝りに行こうと。
やっと眠りに付いた時ヒカリはまた夢を見る。
大輔をひとりじめにしたいかと聞く少女。
戸惑うヒカリに迷う事ない、私の世界に閉じ込めちゃおうと笑って。
今までの夢よりもっとリアルだった。
大輔がDターミナルをみて慌てて着替えて。
寝ようとしていたジュンにぶつかりそうになり、文句を言おうとしたジュンに悪いっていって。
服に着替えた大輔にジュンがこんなに遅くにどこに行くのかと聞いて。
ヒカリちゃんが危ないんだと大輔は叫びドアを開けて駆けていった。
ヒカリは必死に引き止めようとしても声がでず。
そこを太一に起こされた。
隣には心配そうなテイルモンも。
うなされているヒカリにテイルモンが気が付いて太一を呼んだらしい。
兄の顔を見てヒカリは起きる。
時計を見ると6時前。
「お兄ちゃん。」
太一が悪夢を見たあといつもホットミルクを持ってきてくれる。
今日もしばらくしたら持ってきてくれた。
それを受け取りながらヒカリは呟く。
「ありがとう。お兄ちゃん。私大輔君をどこかにつれていったかもしれない。」
「え?」
太一は目をぱちぱちさせる。
「それはどう言う事だ。」
脈絡を飛ばしていってしまいヒカリが言い直そうとしたとき、電話がなった。
ヒカリがぴくりと身体を震わす。
まあ、こんな早い時間になにかしらとつぶやきながら母親が電話に出る。
姑くの対応のあと母親は戸惑いながら太一に子機を持ってきた。
「太一、大輔君のお姉さんから電話よ。」
太一は戸惑いながらも受け取る。
ヒカリが太一の袖口をキュと握った。
ジュンは戸惑いの声で大輔がヒカリに助けを請われて昨日の夜、出ていき今朝まで帰ってこないのだという。そちらはどうかと。
太一がヒカリをなにも言わず見るとヒカリが再びぎゅっと袖口を握った。
ジュンに大輔とヒカリがデジタルワールドでなにか事件に対応しているだけで心配ない事、もうしばらく両親を騙してほしいことを請う。
太一の言葉にジュンは安心したのか太一の要請に答えて電話を切った。
「お兄ちゃん。」
「大輔がいなくなったようだな。」
ヒカリは小さく息を飲む。
さっきのはただの夢ではなく本当の事。
「もしかしてヒカリの同級生が行方不明になった事件とも関係あるのか?」
太一はヒカリを見る。
「落ち着いて話せ。」
ヒカリは頷いた。


ヤマトは雑巾をもって招かざる客人を迎える。
少し早い年末掃除か。
「緊急事態なのは分かるがなぜオレの家なのかな。」
「年末じゃ小学校も中学校も入れないだろう。」
「僕のパソコンからデジタルワールドに行くのも母の目があって不味いですし。太一さんの家も同様です。」
太一と光子郎にいわれてヤマトは首を竦める。
ここは石田家の玄関である。
ほとんど父親のいないヤマトの家なら部屋から子供が消えても騒ぎにならないだろう。
デジタルワールドへの理解もある。
「ごめんなさいヤマトさん。」
「いや、いいよ。ヒカリちゃんの為だから。」
ヒカリに謝られヤマトは手を振る。
「ゴメンな年末に。また今度お詫びするから。」
太一がネコ撫で声で言ってヤマトがでれでれとなる。
ヒカリは丁寧に念入りに二人の足を踏んで歩いてみせた。
光子郎は相変わらずですね、とさらっと笑って流す。
ヤマトの部屋に皆で押し入りパソコンを前に座って話している。
「大体のことは分かりましたが大輔君達がいるのはどこでしょうね。」
「デジタルワールドのどこか、カナ?」
「大輔せめてD3を持っていてくれればなぁ。」
余りに焦っていたのだろう、大輔はD3もDターミナルも持たず飛び出している。
ヒカリの事を心配して飛び出した大輔を思うとヒカリは泣きたくなる。
あんなはっきりしない自分に怒っていたはずなのに、大輔は。
くすんと鼻をすするヒカリに太一達はうーんと唸る。
「ヒカリさん、何か覚えはありませんか?」
ヒカリは光子郎に聞かれ首をかしげる。
「覚えなんて。」
「どんな小さい事でも良いんですよ。」
「小さい事でも。」
ヒカリが目を閉じて夢の事を思い出そうとする。
ふと、笑い声にまぎれて聞こえていたものがあったように思い記憶をさらに追う。
「海鳴り?」
ヒカリが呟く。
海?海岸の近くか?ヤマト達はデジタルワールドの地図を開こうとする。
ヒカリは青ざめながら呟く。
「違う、黒い海。」
太一は驚いたし、光子郎などは眉を寄せた。
「前に聞いたあの。」
「どうやって行きますかね。」
ため息をついたヤマトと光子郎。
あれは黒い世界に請われてあちらからゲートを開いてヒカリを引き入れた。
もしあちらの意志を待つとしたらそれはいつのことか。
「待てよ。あっちの意志ならこんなに何度もゲートを開いて人を攫っていかないだろう。」
太一はヒカリを見る。
「ヒカリの話をまとめればヒカリが意図的にゲートを開いた事になるな。」
「まさか、黒い世界のゲートをヒカリちゃんが開くのか?」
唖然としたヤマトに太一は手を振る。
「そうじゃない、。ヒカリは波長があいやすいんだ。どこの世界にも。デジタルワールドにも。だから小さい頃から困っていたんだよな。」
「もしかしたらオレにも開けたかも知れないし。大輔でも開けたかもしれないな。」
「ほう。太一がねぇ。」
笑うヤマトに太一は、どうせオレはそう言う性格じゃないよと膨れてヤマトの頭を叩いてみせる。
確かに体調が悪い時や精神状態が悪い時は黒い世界に波長が合いやすい。
それを意図的に合わせるのか。
しかし。 大輔の無事を早く確認したいヒカリは立ち上がる。
「私やってみる。」
どうやるんだ?と首を傾げるヤマトと光子郎に太一がシッと指で合図して二人は黙り込む。
静かに過ぎる時間。
まるで静かすぎて、身動きする音も、呼吸も聞こえて来そうだった。
ヒカリは静かにその世界が話し掛けるのを待っていた。
太一がそっと時計を見て、一時間が経過した頃。
くすくすという笑い声にヒカリが目を開く。
「来た。」
その時テイルモンがヒカリに飛びつく。
他の三人がえ、と思った時にはヒカリとパートナーの姿はかき消えていた。
「き、消えた。」
存在は知っていてもあんな風にゲートを開くとはと年長組は驚く。
「取り合えず。」
光子郎はため息をついて持参したノートパソコンを取り出す。
「二人が帰って来た時の事を考えて他の選ばれし子供達に応援でも請いでおきましょうかね。」
「ああ。オレたちは信じて待つしかないか。」
何もなくなった空間を見て太一は言う。
その肩をポンと叩いてヤマト。
「きっと大輔が元気にヒカリちゃんを引き連れて帰ってくるだろう。」
太一は頷く。


ヒカリが目をあけるとそこは暗い世界だった。
目の前の海から寒い空気が駆け抜ける。
「いらっしゃいヒカリ。待っていたよ。遅かったじゃない。」
くすくすという笑い声にヒカリが振り向くと少女が立っている。
影が覆い姿形は分からない。
「大輔君は、他の女の子達はどこにいるの。」
「あっちにいるわ。大輔君はともかく他の子なんてどうでも良いじゃない。」
呆れたような声。
「皆無事?」
「取りあえずね。」
笑う少女。さあ、と手をのばす。ヒカリを案内してくれるのだろうか。
しかし手を見ただけでゾッとして手を払い除けていた。
少女は対して怒るでもなくあら、と言っただけで案内の為歩いていく。
「こっちよ。」
ヒカリは息をのみ取りあえず付いていた。
間もなく城の建物が見えてくる。
大きな玄関を潜るとゲストルームがあった。
ヒカリがそこに惹かれて開くと少女達が。
走りより確認すると全員息がある。
ヒカリがほっと息を付く。
「ここにつれてきたら皆寝ちゃったの。変ね。」
「お願い彼女達を元の場所に返して。」
彼女達が消えて三日くらい経過した事になる。きっと体力も消耗しているだろうしなにしろ、彼女達の両親の事を思うと胸が痛い。
「そうね、邪魔者はいない方がいいわね。」
あっさりいうとゲートを開く。
ヒカリが動こうとすると少女が首を振る。
「ヒカリは行ってはダメ。大輔君はこの先よ。」
なかなかいじわるだ。
と側にいるテイルモンを思い出す。
「テイルモンお願い。」
テイルモンが顔をあげる。
「ヒカリ。」
「どこに繋がっているか分からないけど。危険かもしれないけど。お願い。」
ヒカリはテイルモンの手を握る。
「あの子達をつれてなるべく安全なとこへ。」
「ヒカリ。分かったわ。」
ヒカリの一生懸命願う表情にテイルモンは頷く。
広がるゲートは少女達を飲み込みテイルモンもそれに飛び込む。
「お願いね、テイルモン。」
「分かったわ。安全なところに彼女達をつれていったら必ず戻ってくるから頑張って。」
ヒカリは頷く。
「必ず戻ってくるから。」
そう叫んだテイルモンの声を残してゲートは閉じた。
「あれれ、皆行っちゃったね。」
少女はくすくす笑う。
ヒカリは心細い気持ちを隠す意味でもその少女を睨む。
階段を上り一つの部屋に辿り着く。
「ここに?」
聞いたヒカリに少女は頷く。
「そう。」
ドアが開く。
予想に反して心地よさそうな部屋だった。
そしてベッドで眠る大輔の姿を見つける。
「大輔君。」
近寄ろうとして立ち止まる。
少女が大輔の横に座り大輔の頬を撫でていたからだ。
「大輔君。」
「大丈夫眠っているだけ。」
少女は肩を竦める。
「あの子達も大輔君もこの世界にきて暫くしたら眠りに付いちゃった。」
つまらないと。
多分自己防衛だろうとヒカリは思う。
異常なこの空間に長時間いるのは体力的にも精神的にも辛い。
それから守るために自ら眠りに付いたのだ。
もしかして起き続ける事ができるのはヒカリとこの少女しかいないかもしれない。
ヒカリは目を閉じた。
ここにいてはいけない。いる事はできないと。
しかしヒカリの思考を読むかのように少女は笑う。
「邪魔者はいなくなったし、ずっとここで大輔君と一緒にいよう。ね。」
「なにいっているの。」
睨み付けるヒカリの前で。
陽気にその少女は笑う。歌うように囁いた。
静かに眠る大輔の頬を撫でながら。
「勇気はヒカリの為にある。勇気はヒカリに惹かれる。ヒカリは勇気の為にうまれてきた。ヒカリは勇気に惹かれる。そして。」
「違う。」
ヒカリは首を振る。
「この世界で勇気とヒカリは結ばれてずっとずっと一緒にいる。誰にも邪魔されずに。」
「違う。」
ヒカリはさらに首を振る。
大輔の悲しそうな顔を思いだす。
勇気だとか、光だとか関係ない。
ヒカリは、自分の意志で太一に惹かれ、大輔に惹かれたのだ。
大輔と過ごした選ばれし子供としての時間、そして中学校に上がっての時間を思い出す。
運命なんてしらない。
目の前で陽気に笑う少女の姿がヒカリの前に現れた。
それは、暗く笑う自分。
ヒカリはそれを受け入れて唇を噛む。 この暗い海もそれを内包するこの世界も。
本当はヒカリが現実から逃げるために作った物かもしれない。
太一が言っていたように、誰でも心に持ちえる物。
だけどそれを強く具現化して逃げてしまっていた弱い自分。
自分の力で、彼に自分の意志を伝えて自分の力で勝ち取るのだ。
想像ではなく。
彼の優しさに甘えるだけでなく。
でなければあの少女達に立ち向かう資格も失ってしまう。
「大輔君から離れて、あなたは消えなければいけないわ。」
「なぜ?なぜ?私はここで誰も邪魔されずに大輔君といたいだけなのに。」
「ヒカリ」は首をかしげる。
「それではダメなのよ。」
ここは怖いようで優しい所。
ここに囚われれば大輔が、太一が助けに来てくれるから。
だからといって逃げてばかりいればきっといずれ大輔も太一も呆れて見捨てるかもしれない。
ここはヒカリだけの世界で大輔が存在するためにはふさわしくない所だから。
大輔の笑顔を見るために、その大輔の側にいるためにも。
「離れて。大輔君から離れて。」
ヒカリが近寄ると「ヒカリ」は首を振る。
さらに近寄ると「ヒカリ」は大輔の上に被さる。
「いや!」
自分の姿ながらむっとしてしまい、ヒカリは「ヒカリ」の肩を掴み大輔から引き離そうとする。
「ヒカリ」はさらに大輔にぴたりと付いてヒカリを突き飛ばした。
「助けて大輔君。みんなが邪魔するよ。ただ一緒にいつもみたいにいたいだけなのに。助けて大輔君、邪魔者なんて消してしまってよ。」
ヒカリは突き飛ばされ尻餅をついていた。その姿のままで唖然と観てしまう。
まるで何も自らはせず駄々をこねる子供のようで。
そしてそんな「ヒカリ」を責めるように大輔はピクリともせず眠っている。
「大輔君。どうしてなにもいってくれないの?」
「ただ自分の気持ちを押し付けて強請るだけでは、大輔君だって呆れて何も言わなくなっちゃうよ。」
ヒカリは静かに立ち上がりながら言う。
「どうして。」
「大輔君が望むのは何もしない、ただそばで笑っているだけのあなたじゃあない。」
大輔はどんなヒカリでも好きでいてくれると言った。
ただただ憧れという名の感情の時期もあったかもしれない。だけど。
ヒカリを認め受け入れられてくれていると信じている。
大輔に優しさだけを求めるのは自分の欲求を満たし自己満足しているだけになる。
ヒカリは自分の全てを、そして大輔の全てを受け止めるのだ。
「お姫様でいる時間はもう終わりよ。」
「ヒカリ」はヒカリをにらみ付ける。
「邪魔しないで。邪魔しないで。」
ヒカリが見ている前で「ヒカリ」の体が変わっていく。
目を逸らしたかったが、あえて見据える。
ヒカリは体形を溶かしてダゴモンへと姿を変えた。
恐怖のデジモンは自分の弱い、醜い心の表れだたのだ。
胸に痛いが受け止めなければならない。この狡さから抜け出さなければ。
兄も大輔も答えてくれなくなるだろう。
ヒカリが闇の住人をにらみ付ける。
ダゴモンは大輔を渡すまいと背中に隠しヒカリに襲い掛かる。
余り視力が良くないのかヒカリの位置よりそれて鋭い爪が走った。
ヒカリが微動せずにらみ続けるとダゴモンが少し動きを止めた。
「私は負けない。そして大輔君を連れて帰る。」
とヒカリの周りが光り始め、足元にゲートが開かれた。
「ヒカリ!」
ゲートから走りよってきたのは、自分のなじみのテイルモン。
ブイモンも追いかけてきた。
「ヒカリ大丈夫?」
「テイルモン!来てくれたのね。うん。大丈夫よ。」
頼もしいパートナーが駆けつけてくれてヒカリの闘志も盛り上がる。
再び爪が襲い掛かるがヒカリもテイルモンも難なくよける。
ヒカリの胸にヒカリの紋章が浮かび上がる。
昔の戦いで悟ったではないか。紋章のタグは象徴で本当は自分の中にあると。
ヒカリがテイルモンを見るとテイルモンも頷く。
「テイルモン、進化よ!」
「任せて!」
テイルモンはエンジャウーモンに進化した。
ダゴモンが明らかに動揺した。
エンジェウーモンの攻撃に再び体形を崩した。
それと同時に上がる悲鳴。
現れたのは「ヒカリ」。
「助けて大輔君。痛い、痛いよ。」
大輔に擦り寄るが大輔はピクリとも動かない。
「いくら助けを求めてもダメよ。あなたの前に大輔君は起きないわ。」
「ヒカリ」は黙り込む。
大輔の上着を、手が白くなるくらい握り締める。
「裏切り者、裏切り者」
「消えなさい、あなたは存在すべきものではないから、大輔君だって裏切り様がないわ。」
「ひどいひどい」
大輔の体を揺さぶる。
「やめて!」
今度はヒカリが「ヒカリ」を突き飛ばした。 「ヒカリ」は何が起こっているかわからないようで唖然と床に座わりこんでいる。
ヒカリは大輔の側に走りより背中にかばった。
「消えなさい。さあ!」
ヒカリはもう一度睨む。と。
「ヒカリ」はびくっと体を震わせると泣きながら姿を消した。
「大輔!」
ブイモンは何も出来ずはらはらと今までの状態を見ていたが「異形の物」が消えて大輔に走りより心配そうに声をかけた。
「テイルモン、来てくれて有難う。」
進化をといてヒカリの側にきたテイルモンにヒカリはお礼を言うと、テイルモンはいつものようにすまして笑う。
「ヒカリの為だもの、当たり前よ。」
ヒカリは嬉しくてテイルモンにぎゅ―ッと抱きついた。
が、ブイモンの大輔を呼ぶ声に正気に返り、走り寄る。
「大輔くん。」
ヒカリは大輔の側によりおそるおそる声をかける。
最後に会ったときあんな形で喧嘩してしまったから、もしかしてもう愛想をつかして自分には笑いかけてくれないのではと不安だった。
でも、もしそうであれば、今度は自分が大輔に片思いして好かれる努力をする。
ヒカリがそう思ったとき、大輔が目を開ける。
「ヒカリちゃん?」
ぼんやりと目を開けてヒカリを見た大輔。
「大輔君…。」
大輔はボーとしつつも起き上がりヒカリを見る。
「ヒカリ!」
テイルモンが声をかけ先を示す。
そこはテイルモン達が開いたゲート。それが小さくなってきている。
「あれ、おれ?ヒカリちゃん?」
はっとなり、大輔はヒカリの肩をつかむ。
「ヒカリちゃん?怪我ない?大丈夫?」
まっすぐ心配そうに見てきた大輔にヒカリは思わず涙ぐむ。
「ヒ、ヒカリちゃん?」
大輔が慌ててヒカリを呼ぶ。
多分この世界にきて記憶が混乱したままだと思う。
「大丈夫よ。ごめんね。」
「ヒカリちゃん…。」
「行こう、大輔君。ゲートが閉じるよ。」
もうこの世界へのゲートは開かない、二度と。ヒカリには必要ないから。
二人だけの無垢な世界なんて要らない。
大輔らしい大輔とあの優しさと厳しさが混在する世界で大輔と一緒に大人になっていくのだ。



ゲートを抜けた先はデジタルワールドだった。
デジバイスを持たない二人は当然現実世界へのゲートを開けない。
アグモン達と連絡をとるためテイルモンもブイモンも彼らを探しに行っている。
他のパートナーデジモンに連絡をとれば彼らから兄達になにらかの形で連絡をとってゲートを開いてもらえるだろう。
デジタルワールドは何度も来たので庭みたいなものだ。
小さい林の入り口でヒカリは大輔とテイルモン達が帰るのを待っている。
行方不明だった少女達も静かに眠っている。
「そうか。」
ヒカリは今まで起きた一部始終を大輔に話した。
「だからすべて私のわがままから起きた事件なのよ。私の傲慢さが。」
ヒカリ辛くては思わず手を握りしめると、大輔は笑って首を振りヒカリの手を上から握る。
「わかった、もういいから。」
「大輔君。」
「有難う。助けてくれて。ヒカリちゃんなら助けてくれるって信じてた。」
ヒカリの握り締めた手の指を一本、一本と緩めながら大輔は笑う。
「確かにヒカリちゃんの負の心が起こしたことかも知れないけど、今こうやって俺達がいられるのはヒカリちゃんがその心に立ち向かってかったからだよな。」
「大輔くん。」
「それがわかったから、もう十分だよ。有難う。」
「大輔君。」
ヒカリはまた涙ぐんでしまう。
大輔が隣でわたわたしている。
「お礼を言うのはこっちのほうだよ。あの時励ましてくれたから、頑張れたんだよ。」
ヒカリが涙をぬぐい笑って言うと大輔もほっとして次に笑う。
「オレ何か言ったかなぁ。」
「うん。」
やはり自覚のない大輔である。
「いいの。」
「良く分からないけど、じゃあ、相子ってことで。」
二人で笑いあう。
「いや、」
ふいに大輔が顔をしかめ、ヒカリはどきりとした。
「大輔君?」
顔をしかめたままの大輔にヒカリは恐る恐る声をかける。
「俺、ただぐーすか寝ていて、ヒカリちゃんに無理させたんだよなぁ。ヒーローの立場ないじゃん。」
大輔はとほほんと肩を落とす。
ヒカリは笑ってしまった。
と。
遠くで自分や大輔を呼ぶ声がして、大輔が立ち上がろうとする。 「あ、太一先輩達だ。」
ヒカリはその手をつかむ。
今を逃したら言えないし邪魔もされそうだから。
「大輔君。私。」
「ヒカリちゃん?」
立ちかけの姿勢で大輔がヒカリを見る。
「私、大輔君が好き。」
兄に対する気持ちは憧れで自己愛だ。
大輔に会って初めて自分を知り強くなった。
そして本当の意味で人を好きになる事を知った。
だから今までの嫉妬も、自己嫌悪も、憎しみもすべて大輔と共にだから受け止めて乗り越えられた感情だ。
大輔を好きになれて良かったと。


結局行方不明者は公園などで眠っている所を発見され保護された。
食べず眠っていたので少し体力を消耗したようだがすぐに退院したようだ。
ヒカリは自分の責任だからと保護者達に謝ると言って聞かなかったが、説明のしようがないからと説得されて光子郎たちの計らいで詳細は闇に葬り去られた。
新学期。
新年を迎えて合せる顔ぶれは同じであってでもなぜか気持ちも新たにされて気分が違う。
本日は始業式のあと、掃除をして帰るだけとなった。
あの事件もなんのその、懲りない女子生徒達は、大輔のもとにやってきた。
周りが冷やかすなか大輔は少女達に囲まれてしまう。
「本宮君。いいでしょ。友達でもいいから付き合ってあげてよ。」
友人の願いをかなえたい少女は大輔に喰らいつく。
「いや、だから俺、付き合っている子がいるんだ。」
「八神サンでしょ。付き合ってないなら、え?」
周りにいた少女達は唖然と口をあける。
「え?今なんて?」
「いや、俺ヒカリちゃんと付き合うことにしたんだ。」
輪の外に向け大輔は照れたように申し訳ないようにいう。
視線の先には少しすねたヒカリが。
「だからごめんな?」
それを聞いていた周りの生徒達もおどろいた。
ヒカリは少女達の輪の中に入り、大輔の袖口をつかむ。
去年とは違う。
自信にあふれた気持ちで。
少女達を見回し「そういうことだから。」と言って余裕で微笑んだのだった。

end


ながっ。流れてきには文化祭の話のあとです。
ヒカリとうとう告白しました。
「ゲートが閉じるよ。」
と「運命なんか知らない」っていう言葉からこんなに膨れ上がりましたこの話。
センス無し。もっとカッコよく上の言葉使いたかったなぁ。
書き直すかも。(いつも書いているなぁコの言葉とほ)
同人誌を持っている人は読み比べて鼻で笑うものよし。
シマシマ/坂本真綾/gravity/Victor/2003/

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