文化祭へ行こう!体育祭も終わり、次は文化祭を控えたある日の事。 放課後のパソコン室はめずらしく人が集まっている。 真剣な光子郎を前にどうしたのか?と顔を向けるのは、京やヒカリ、タケルなど一部の者である。 部長の光子郎によってパソコン部部員に召集がかけられ、一同集まったのだが。 幽霊部員を大勢抱えていることを誇るパソコン部。 ほとんどの者は無関心でぼーとしてたり、または別の用事があるのかそわそわしたり、女子達ならひそひそ話をしたりしている。 つまり早く終われ、と思っているわけだ。 光子郎は一つ咳をする。 「パソコン部が危機を迎えています。このまま活動らしい活動を学校側に示さなければ廃部にする、と言われました。」 「ええっ。」 京は叫び、ヒカリも驚いた。 しかし他の部員はそう対した感銘もうけずふーんと聞いている。 「皆さんが好きに活動できるようにと特に出欠席を制限していなかったのですがどうやら一部の教師が疑問を持ったようで。」 パソコン部はコンピューターを扱うため、それなりに部費を得ている。 光子郎がしっかり管理してパソコン部の為に使っているので特に不正に使いこんだというわけではないが。 ほとんど活動せず一部の部員(京やヒカリのことだ)のお喋りの場となっているのが現状。 それならば少しでも自分の部に回したいという教師も多い。 「部活があるからと御両親に誤魔化して遊びにいく生徒もいて教育上悪いとか。」 そこで何人かの部員がぎくりと反応する。 塾や家の手伝いをサボる言い逃れに部活動を出している者が多いのだろう。 「そして、このまま廃部が現実となっていちばん辛いのは。」 光子郎がかなしそうな顔をする。 「先輩達から受け継がれてきたこのパソコン部。廃部にしては、卒業生の方々に顔向けがでないことです。」 光子郎はよよよと泣きまねをしてうなだれてみせる。 一同はあきれて何も言えず黙り込む。 光子郎は涙を拭くまねをしながら身体を正す。 「と、いう訳でこの文化祭でパソコン部の活動について紹介して卒業生の皆さんや在校生の皆さんにも存在と有意義について知っていただきたいとおもうのです。皆さん協力してくださいますね?」 京はもちろんヒカリもタケルも頷く。 文化祭に向けて活動は必要なのは分かっていた。 そして光子郎は三年でもうすぐ部活動を引退しなければならない。 餞と言えば大袈裟だが少しでも光子郎の思い出の足しになれば、とヒカリは思うのだ。 部の存続をかければ他の部員も頷くしかなかった。やる気が無さそうに頷く。 「で何をするかですが、パソコン部は劇を考えてます。」 部員全員が固まる。 「何言ってるんですか。そんなの演劇部に任せればいいでしょう。」 部員が文句を言う。 「まあ、聞いて下さい。」 光子郎が手を振り一同に押さえてと合図してみせる。 コンピューターグラフィックを利用して幻想的な風景を演出するなど、コンピューターだからこそできる事を生徒や教師達に見せるのだと。 それだけでは物足りないので、劇も加えてもりあげるのだと。 要約すれば上のような事を光子郎は分かりやすく面白そうに語ってみせた。 また、文化祭は食べ物などの出店、パネルでの展示、そしてステージでの講演の三種類がある。 この中で生徒、教師、来客者で投票を行いクラス部門、部活部門でトップのグループは表彰される。 上位に上がりやすいのが講演なのである。 表彰されれば部の存在意義も認められるだろうと。 「僕ももうすぐ引退ですし、ここは先輩を立ててがんばっていただけないでしょうか。」 またよよよと泣きまねをしてみせ、全員沈黙した。 「皆さん、がんばりましょうよ。」 ヒカリは思わず立ち上がり言う。 と京も手を挙げ同意してくれた。 「そうよ、ほら皆手を挙げてエイエイオーってね。ほら皆手を挙げて!」 結局全員で音頭をとって文化祭へ向けて活動する事となった。 「皆さん有り難うございます。」 爽やかな笑顔で言った光子郎をほとんどの部員は悪魔のように見えたに違いない。 具体的な話に入る。 「不思議の国のアリス」 劇の演題だ。 しかもタケルがほとんど台本を組終えていると聞いた時はヒカリは驚いてしまった。 光子郎とタケルが背中の後ろで手を組んで微笑んでいる姿が浮かびそうだった。 さらに配役に入りヒカリは追い詰められる。 パソコン部の女性部員で体格などを考えと自分に白羽の矢を立てられてしまったのだ。 悪魔二人組をさり気なく睨んでも遅い。 他の部員も主役の配役を押し付けられてはたまらない、と皆で賛成してみせる。 微笑むタケルに台本を手渡されてしまった。 ヒカリの役はそう、アリスだったのだ。 そこへタイミングよく大輔が元気に入ってくる。 「遅れましたー。」 実は大輔もほぼ幽霊部員なのだが、パソコン部員のひとりなのだ。 「大輔君‥。」 途方にくれて助けを求めるように見たヒカリに、大輔はさすがに気がついた。 「どうしたの?ヒカリちゃん。」 寄ってくる。 と光子郎がすすっと笑顔で近付き大輔の肩を叩く。 「大輔君も協力してくれますね?」 「へ?」 というわけでヒカリが助けを願う前に大輔は光子郎によって陥落されてしまった。 いわく。 「ヒカリちゃんのアリス姿か。楽しみだな。がんばってねヒカリちゃん。」 と言うわけでやる気満々になってしまったのだ。 ヒカリからすれば光子郎は兄太一を助けてきて、新しい選ばれし子供達の力にもなってくれたので尊敬と感謝の対象でしかなかったのだが、この時初めて殺意さえ覚えたのだった。 決まったものは仕方ない。 一ヶ月少ししかない期間。指折り数えればきっと短い期間。 いささか慌てながら部員達は割り当てを決めて文化祭に向け準備を進めていった。 「ぶぶぶーっ。ヒカリがアリス?」 八神家リビングで憩いのひととき。 台本を持っていたヒカリに太一が理由を問い、誤魔化すつもりが母がさらりと言ってしまった。 「なんで笑うのよーっお兄ちゃん!」 太一が笑い転げ、ヒカリは側にあったクッションを太一に投げた。 「いや、悪いけどヒカリが役者って柄じゃないかなぁっと。」 「それは自分でも思う‥。でも。」 笑わなくてもいいじゃないとヒカリは膨れてみせる。 「いやいや、ヒカリが選ばれたんだからお兄ちゃんとしては鼻が高いぞ。」 「うんうん、そうだなぁ。お父さん絶対見に行くぞ。」 聞いていた父は嬉しそうに頷き、ビデオカメラどこに置いていたかななどといっていそいそ立ち上がっていた。 「オレもヒカリの晴れ姿みにいくぞ♪」 太一はにしゃにしゃと笑い続けている。 「うう、止めてよ。二人とも‥‥。」 はしゃぐ父親と兄に母親も寄ってきて私も行こうかしらと笑っている。 この雰囲気からきっとどう止めようと嵐がきても地震がきてもきっと文化祭にくるだろうと思いヒカリは努力することを放棄した。 取りあえず台本のセリフを覚えることに専念するためヒカリは自室に避難する事にした。 台本を読みながらふとヒカリは最近のパソコン部の事を思う。 男子は分担してパソコンでCGや背景効果などを行っている。 そして少数派の女子はヒカリなど劇の人物の衣装を担当している。 日々真剣に熱が入る部員達にヒカリは嬉しいものを感じる時がある。 今までほとんど顔をあわせる事のなかった部員たちが一致団結して一つのことに向かう姿はいいものだ。 多分、とヒカリは思う。 光子郎はこうやってメンバーが何かに真剣に取り組む姿などを見てパソコン部としての思い出を残したかったのかも知れないし、部員達のパソコン部活動の興味のきっかけになってほしいと願ったのかも知れない。 きっとタケルや京はその事を知って以前から協力していたのではないかと思う。 ただ、ただ自分も仲間に入って裏方にいる事ができたら良かったのにとため息をつく。 「パソコン部の出し物すごく熱入っているみたいだなぁ。」 文化祭の準備で華やぐ学校。 最近いろんな噂がとびかうが、パソコン部も上位入賞の候補に上がっているらしい。 担当の教師が職員室に別の用事で来たヒカリを捕まえて言う。 「あ、はい。がんばります。」 他の生徒達や教員にも声をかけられていたのでヒカリはいつものように答える。 「わしも見に行くかな。ははは。」 「先生‥。」 ヒカリが困った顔をするとそれをみてさらに担当は笑う。 ヒカリが劇の主役をするというのはとっくにバレているのだろう。 「まあ、怪我をせんように、勉強をおろそかにしない程度に頑張れ。」 「はい。パソコン部の危機を救わないと。」 ヒカリがガッツポーズでいうと教師はきょとんとしてみせた。 その表情が不思議に思えて尋ねようとしたところで別の教師がヒカリを呼び聞き逃してしまっていた。 何となく笑顔の光子郎の後ろに黒いしっぽがひょこっと生えているところを想像してヒカリはまさか、と冷や汗をかいてその想像を打ち消した。 時々読み合わせを行いほぼ流れがつかめてきてヒカリは少し緊張を抜いた。 この日は衣装あわせでヒカリはパソコン部のドアをあけようとしたところで先にドアが開き大輔が出てくる。 「あ、ヒカリちゃん今から?」 「大輔君は?」 「今終わったところ。次サッカー部の打ち合わせ。がんばってね。」 「大輔君もね。」 ヒカリが返事をすると大輔はいつもの調子で笑い立ち去る。 サッカー部も講演の部門に参加するのだ。大輔いわく冷やかしで入賞などは狙っているわけでなく、運動部も部員の多い部はなにかしら参加するのが普通らしい。 光子郎は生徒会長で雑用に追われているし、タケルもクラスの出店を兼ねているので皆それぞれ忙しそうだった。 教室に入るとタケルが白いスーツ姿で振り返る。 ヒカリは一瞬場所を忘れて絶句した。 「あー、ヒカリちゃんきたきた。」 さらにびらびら赤いのドレスを着た京が手招きをしてヒカリは頭を抱える。 「凄いね。吃驚しちゃった。」 呟くヒカリにそりゃあ、がんばりましたから、と衣装担当の女の子達は胸を張る。 意外に器用なコが多いらしい。 「タケル君かっこいいね。京さんも。」 笑顔で迎えるタケルにヒカリは素直に感想をいう。 「あはは、ありがとう。でもこれにネコ耳がつくんだよなぁ。お間抜けだと思う。」 どうやら統べて完成と言うわけではなく仮あわせらしい。 京も得意そうにくるくる回っている。 ちなみにヒカリがアリスならタケルはネコで京は女王。大輔はウサギである。 選ばれし子供達がメインの役に当てはめてある。 これもタケルや光子郎の、他のメンバーにストレスをかけない策略なのかな、とヒカリは思っている。 「ふふふ、見栄えがいい人たちばかりだから作り甲斐があるわね。本宮君もカッコよかったし高石君もいい感じ。」 衣装担当のコたちははしゃいでいる。 忙しそうなメンバーを無理をいって引っ張ってきた甲斐があったと。 ヒカリは閉じられたドアを振り返る。 けっきょく大輔の晴れ姿は見てない。 カッコよかったと言うから見れないのが残念だった。 「さ、八神さんも!」 ヒカリは女の子たちに引っ張られ別室に押し込まれ、アリスの服を着せられた。 鏡に写った姿は自分であって自分でないようで照れがうまれる。 またパソコン部の部屋に連れ戻されて皆にほめられさらに照れてみせる。 「大輔がみたら狂喜しそうだね。」 京はうんうん、と頷きタケルも同意した。 「そうかなぁ。」 おもわず聞き返したヒカリに京もタケルも一瞬きょとんとして次に微笑む。 結局本番まで大輔にアリスの衣装を見てもらう時間はなく過ぎるのだった。 穴に落ちるシーンなどアクションシーンや大きくなる、小さくなるなどのシーンはあらかじめ撮影して編集するという作業をしたり音あわせをしたりなど忙しく時間は過ぎる。 前日に打ち合わせた時は完璧だとパソコン部員は誰もが思った。 当日。 パソコン部の発表は昼過ぎで時間があるというのにヒカリは落ち着かない。 自由時間もそわそわとして一緒に行動していた久美に笑われてしまった。 テニス部はポップコーンを売るらしく久美ももちろん店員をしなければならないが、ヒカリの出る劇は見に行くからと笑ってヒカリをからかう。 そんな感じで時間はあっという間に過ぎて講演時間がくる。 ヒカリは舞台裏から客席を覗いてぎょっとする。 じわじわと客が入ってきて席が埋まっているからだ。 昼過きたころは来客者も多く講堂も客が増えるらしいと聞いていたがここまでとは思わなかったのだ。 ちなみに上演の時間はクジ引きで決まる。 くじ運のよいタケルが見事よい時間を引き当てたのだ。 ヒカリの緊張が高まり、少し足が震えてしまった。 ヒカリは別に演劇部のようにたくさんの人の前で演じる事に喜びをもつことはないので。 他の部員がヒカリの緊張に気がつき「頑張って。」とつぎつぎ声をかけるがヒカリはかたく頷くしかなかった。 と、大輔とタケルが舞台裏に集まってきた。 タケルもヒカリの緊張に気がつき声をかけようとしたが、大輔の素頓狂な声に口を閉じる。 「わあ、本当だ。ヒカリちゃんのアリス姿聞いていたけどやっぱり可愛いねー。」 ヒカリが大輔を見るとハートを飛ばしそうな笑顔で喜んでいる。 と京が大輔の頭を叩く。 「ったく本番前にその態度はなによ。ほら、その締まりのない顔をひきしめるっ。」 「いてー!」 おもわずその流れにヒカリは笑ってしまい他の部員も笑う。 上手い具合にヒカリや他の出演者の緊張を取り除いてくれたようだ。 前の舞台が終わりパソコン部の出番であるアナウンスが聞こえてきて一同顔を引き締める。 隣に並んだ大輔を見ると大輔が笑ってヒカリに声をかける。 「大丈夫だよ、一緒に頑張ろう。」 ウサギの眼鏡ごしにヒカリを見て言う。 ガンバってではなく頑張ろうというこの声掛けが一人でないという安心感に繋がるのだ。 そういえばとヒカリは大輔の姿を見返す。 狙ったかのようにタケルと正反対の黒のタシキードを着ている。 服ももちろんだが鼻にかかる小さい丸い眼鏡も、耳が出ているシルクハットも決まっている。 「うん。頑張ろう。大輔君もかっこいいね。」 「え?」 そこでヒカリは出番のために舞台に走り出る。 ヒカリはタケルと大輔が舞台裏に来た時少し息がきれている事に気がついたが、聞く事が出来なかった。 じつは二人は早めに衣装を着替え宣伝のため走り回っていたのだ。 これは光子郎が案をだしたり指示したわけではなく大輔とタケルが勝手に行った作戦だったようだ。 二人の姿をみた客が押し寄せてきた事をヒカリが知ったのはあとの事。 お台場中には巨大モニターがあり、それをさらに9つあわせてスクリーンのようになる。 それを拝借してCGを映し大道具の代わりに背景や効果として使用していた。 順調に劇は進み、観客から時々感心した声や歓声がもれる。 あと少し、裁判のシーンだ。 アリスが大きくなるところ。それは後ろのモニターで演じヒカリは声だけだせばいい。 じつはそういうシーンが多かった。 しかし。 そこでトラブルが起きた。 後ろの背景がふと突然消えたのだ。 ヒカリは吃驚して立ちすくむ。 部員たちが舞台裏で慌てているのが気配で分かる。 どうやらコンピューターが落ちたようなのだ。 ヒカリは舞台で動く事ができない。 こういうトラブルは予想してなかったからだ。 観客がざわめくのが分かる。 と舞台にヒカリとは離れてエクストラっぽくでていた大輔が動いたのが見えた。 舞台の電気が消え真っ暗になり観客がさらにざわめく。 と、ヒカリにライトが当たる。 「大変だ!たいへんだ。踏みつぶされてしまう!?」 舞台と観客席の間で大輔が叫ぶ。 ヒカリがあっと振り返ると後ろに大きな影があって。 ヒカリはなんとかセリフをアドリブを交えながら繋ぐ事ができたのだった。 大輔の機転がきいて同じように固まっていた他の出演者も動き、劇は続く。 その間に素早く部員がコンピュータを起動させたらしく後ろの画面も復活した。 そうしてなんとか終わりまで漕ぎ着けたのだった。 たくさんの声援と拍手を前に幕が閉じる。 舞台から舞台裏に移動した一同はほっとして次に歓声をあげた。 途中でトラブルがあったものの乗り越えて最後まで行う事ができたからだ。 ヒカリもほっとして嬉しくて笑った。 「やったねーー。」 京が手を挙げ、全員で手を叩きあう。 「お疲れー。」 「お疲れ!」 「大輔やったなぁ。」 舞台裏で背景担当の二年生たちが大輔の頭を叩く。 「上手くやったじゃん。あの時。どうなるかと思ったけど。」 「えへへっ。」 「そうですよ。さすが本宮と八神さん。いいコンビネーションでしたよね。息ぴったり!」 女子達もきゃーきゃーと褒めちぎる。 「てへへ。」 ヒカリとのコンビでほめられ大輔はさらに嬉しそうだ。 ヒカリは歩いていく部員達の背中を見送る。 大輔も他の部員もヒカリが続いてこない事に気がつき振り返る。 「ヒカリちゃん?」 大輔が走り寄ってくる。 ヒカリは大輔や他の部員に笑いかけながらも動けない。 「なんだか、気、抜けちゃったみたいで。」 ヒカリはすべての緊張とプレッシャーから解放されて脱力してしまい動けなくなってしまっていた。 心配する部員達に少し休めば大丈夫だからと断って部室を目指す。 大輔はヒカリにつき合って部室までついてきてくれた。 文化祭の残り少ない自由時間、潰してはいけないからと断るが大輔は聞かない。 静かな部室に入る。 他の部員達はそのまま別の講演を見たり、店を回ったりしているようで誰も戻っていなかった。 「ヒカリちゃん、大丈夫?」 「うん。落ち着いてきたみたい。ごめんね、付き合わせて。もし見たいものがあるなら行っても良いよ?」 部室の椅子に座る。 今年は講演発表だったのでこの部屋は文化祭には使われなかった。 ゆっくりできそうだ。 ざわめきを遠く聞きながらヒカリは思う。 「別にないよ。ヒカリちゃんの方が心配だし。」 体調が悪くなったわけでなく、一時的なものだからと言っても大輔は納得しない。 「終わったなぁ。なんかほんと一息つく感じだ。」 「うん。でもこれから今度は期末テストがあるよ。そんなに休んでもいられない。」 「うわ、ヒカリちゃん現実的‥。」 大輔は嫌そうなうんざりなような顔をして、ヒカリは笑う。 「今日は本当にありがとう。」 「それはこっちのセリフだよ。」 大輔の機転がなかったら自分は何もできず立ちすくんだままで劇も失敗に終わったかも知れない。 「でも、あれはオレも咄嗟に思い付いた事だから。ヒカリちゃんが答えてくれて嬉しかった。」 大輔が隣の椅子にもたれ首をかしげる。 「なんかオレ一人いつもばたばたしてヒカリちゃんにフォローしてもらってるからなぁ。」 「そんなことないよ。私だって、今日も、ううん。いつも助けてもらっている。」 ヒカリは思わず涙ぐんでしまう。 そんなヒカリに大輔はおろおろしてしまう。 「ヒカリちゃん?どうしたの?具合悪いの?それともオレ何か変な事言った?」 「違うの、違うのよ、大輔君。」 ヒカリは涙を拭きながら笑う。 「ありがとうって言いたかったの。」 「え、オレに?何もお礼言われるようなことしていないけどなぁ。」 「いいから。」 「いいの?」 「うん。」 大輔は首を傾げ次に笑い頷く。 「どうしたしまして。」 二人笑いあう。 自分がしたことが人をとても喜ばせている事を自覚してない、少し鈍感な大輔。 大輔の優しさは初めてあった時からだった。 その優しさに触れるのは時には胸が痛いくらいだったのに。 今はその優しさが嬉しくて独占したい。 途中で大輔が腹がへったーなどいってあちこちの店で食べ物を買ってきた。 たくさんの量であきれたが、ヒカリが少しごちそうになって大輔がほとんど食べてしまって感心してみせた。 ふと窓から外を見ると人がまばらになっている。 文化祭も終わりに近い。 ヒカリは思う。 アリスはウサギに誘われ不思議な国に迷い込む。 そこでいろんなどたばた騒ぎがあって通り過ぎて。 気がつくと居眠りをしていてすべてはゆめだった、と。 文化祭も慌ただしくただ夢中なうちに過ぎていった。 まるでアリスが見ていた夢のように通り過ぎていく。 ただ大輔へのこの気持ちは、うやむやに消したくなかった。 さてそろそろ帰るか、といって立ち上がった大輔にヒカリは声をかける。 「大輔君。」 「ん?」 大輔はいつものように無邪気に微笑んでヒカリをみる。 「大輔君、私ね、私‥。」 ヒカリも立ち上がるも恥ずかしくて目線をそらす。 大輔はヒカリに向き合うように身体を向ける。 真面目にヒカリの言葉を聞こうとしている気配を感じてヒカリは息を一度大きくすう。 大輔の顔をみて言う。 「私、大輔君の事が‥。」 大輔が軽く目を見張るのが見えた。 と。 「あれー、太一さん、ヤマトさん何しているんですか?」 京の声が廊下の外で聞こえて、ヒカリも大輔も固まってしまった。 そしてすぐに京がドアを開けて元気に入ってきた。 「あ、ヒカリちゃんみーつけ!」 にこにこしながらかけ寄ってくる。 後ろからおや、と一瞬表情を変えた光子郎やこちらは無邪気なパソコン部員達、そして彼等に押されるように太一とヤマトが入ってきた。 「ヒカリちゃん、みてみて、じゃかじゃん。」 ヒカリに賞状を見せる。 「これ?」 「えへへへー、入賞は出来なかったけど特別賞だって。ヒカリちゃんと大輔のあのハプニングシーンが評価大きかったみたいだよ。」 講演部門はさすがに演劇部ほどは票が入らなかったが、CGの完成度や、ヒカリ達のあの時の対応の仕方を評価して入れる生徒や来客者も多く特別に賞を作ったのだと言う。 「そ、そうなんだ。」 よかったよかった、と全員で盛り上がりヒカリも大輔もパソコン部員達に囲まれ引き離されてしまった。 ああ、幼い恋が実るには障害が多いものだ。 囲まれた大輔は頭を抱える。 少し顔が赤くなっているのが自分でも分かる。 まさか、と。 もし邪魔がなければヒカリのそのあとの言葉も聞けただろうに。 無邪気にはしゃぐ部員達を少し恨めしく思いながらまさかなぁ、上手すぎるよなぁとため息をつく。 ヒカリも盛り上がった気持ちに冷水をかけられたようで、一瞬唖然として心でむっとして、次にため息をついた。 この場では大輔に自分の気持ちを打ち明けるわけにはいかず。 結局アリスの不思議の国での騒ぎのように文化祭は終わってしまったのだった。 その後。 「光子郎さん。廃部の件嘘なんですね?」 「え。何の事でしたかね。しかし特別賞をいただけて、皆もまとまって、しかも来年はパソコン部の部費の予算もすこし割り増してもらえるようでめでたしめでたし、一石三鳥くらいですかね。」 などと爽やかに言いながら光子郎は笑う。 「しかし良いところを邪魔してしまったようでそれは詫びないといけないですかねぇ。」 意味真に微笑んでいう光子郎にヒカリは何の事ですかととぼけてみせたがきっとバレている。 ヒカリが選ばれし子供達にその事をこそっというと「光子郎だから。」と皆声を揃えていって納得している。 ヒカリは呆れる事も怒る事もできず。 哀れ。 光子郎のワンダーランドと言う名の手のひらの世界で踊らされたのだという考えに至ったのだった。 end 文化祭編。これまたワンパターンかなぁ。 この話しの前にアップした「戦いの火蓋」とセットで本にしようと思っていましたが間にあわず、ウエブで流用と相成りました。 題名ひねりもないです。思い付かなかった。また変えるかもです。 電脳に戻る・トップに戻る |