IandI帰宅のため校門を抜ける生徒達が、ちらちらと視線を一点に向けるからだ。 何だろうとそちらを見やって空は驚く。 選ばれし子供として、現実世界、そしてデジタルワールドを共に守った仲間の一人、タケルが立っていたからだ。 空と目が合うと、笑顔を浮かべ近寄ってくる。 その容貌に共通する生徒を思い浮かべた他の生徒達は、自分達の予想が当たっている事を悟り、 安心したように帰路につきだす。 そんな視線をものともせずタケルは話し掛けた。 「空さん、久しぶりです。」 「そうね。どうしたの?こんなところで。あ、ヤマトに用事?」 お互いのブラコンぶりを知っているからこその空の言葉に、タケルは苦笑する。 「いえ、空さんに用事があって。」 「私に?」 空は意外そうに首を傾げる。ふと帰路につく生徒達の遠慮がちな、だけど興味深々の視線に気がつく。 「あちらで話しましょう?」 目立つという自覚のあるタケルは頷いた。 2人は中学校から程近い公園へ移動する。 静かで話しやすそうな場所を探し空がベンチに座ると、タケルは話し出した。 「実は、母が遊園地のチケットをくれて、空さんと行きたいなと思うんです。」 「あら。」 そのテーマパークは最近オープンたばかりで人気のアトラクションも多いところだった。 タケルが差し出したチケットは1日フリーパス付である。 「あ、もしかして受験勉強とかありますか。」 タケルが思い出したように聞く。 空は苦笑いしてみせた。 確かにこの4月から中学3年生になったのでこれからは受験一色になるだろう。 しかし、まだ目の色を変えるほど空は追い詰められていない。 「大丈夫よ。」 タケルの表情が明るくなる。 「いつがいいですか?」 「そうね‥。」 空は現在入っている予定を記憶から探し出しながらつぶやく。 「うん。来週の日曜は大丈夫よ。皆はどう?」 「?大丈夫ですよ。」 タケルが2、3度瞬きをしたがすぐにうなずいて見せた。 「そう。」 「また詳しい予定を決めたら連絡します。」 タケルは嬉しそうにいう。 あまりに嬉しそうなタケルを見て、つられて空も微笑んでいた。 「うん。楽しみにしているわ。」 帰り道、他愛のないことを話しながら一緒に歩く。 別れ道にくる。 「じゃあね。」 「また。」 嬉しそうに手をふるタケルに空は微笑んで見送る。 前日の土曜。タケルより待ち合わせ時間などの詳細の連絡をもらった。 そのテーマパークの観覧車から見る夕日がきれいだからぜひ見て帰ろうと話したりした。 空は久しぶりに選ばれし子供のメンバーと遊びに行くことになるので楽しみにしていた。 最近まで近くにいたと思っていた、青い瞳の少年に面と向かって会うのは少し気が重たかったけど。 そして日曜日。 お台場駅で待ち合わせた空。 時間きっかりに現れたタケル。 「おはよう。」 お互い笑顔を見せ合う。 空はいつもの几帳面さから10分前にはここについていた。 空はきょろきょろする。 「皆はまだこないわね。けっこう皆時間にはきっちりしているはずなのに。」 タケルがえ?とつぶやき目を何度か瞬かせた。空は気がつかず。 「そういえば、今日は皆これるの?」 などとタケルに聞く。 タケルは苦笑いを浮かべていた。 「タケル君?」 「僕皆と行くって一言も行ってなかったんですけど。」 「え?!」 今度は空が何度も目を瞬かせる。 その反応に不安さを表情に丸出しにしてタケルが聞く。 「僕と二人で行くのいやですか?」 「え?え。いやじゃないけど。どうして?」 いやではないと聞けたためタケルは見た目にもほっとして見せた。 そして微笑む。 「もちろんデートですよ。空さん。」 微笑を深くして空に手を伸ばす。 空は頭を真っ白にしながらとりあえずタケルの手に手を乗せていた。 真っ白な思考もテーマパークにつく頃には何とか整理できた空。 そういえばヤマトとは面と向かって会うこともないのだと思うと一気に気が楽になった空は、 せっかくなので楽しもうと気持ちを変えていた。 よしと小さく呟きいつもの雰囲気に戻った空をそっと見ながらタケルは空に見えないように苦笑する。 叫んだりはしゃいだりしながら色んなアトラクションを二人で楽しむ。 タケルが予め楽しめるアトラクションを下調べしていたらしく、スムーズに回ることが出来た。 「はー。ちょっと疲れちゃったわね。」 ちょうど見えてきたカフェテラスのベンチに空は座る。 「僕ジュース買ってきます。」 「ありがとう。」 タケルは空の好みを聞くと駆け出した。 ふと見ると隣のテーブルにやや年配の女性が何人か座って華やかに話している。 あまりの賑やかさに少し空は小さくなっていた。 そして、ジュースを買うために並んでいるタケルを見る。 この度の誘いの意味を考えてみる。 タケルはどうして自分だけを誘ったのか。 もちろん冒険の頃から仲間として慕われていたのは解かっていたし、 弟がいるならこんな感じかなと、自分も弟のようにタケルを好いていた。 だけど。 タケルが二人分のジュースを手にこちらに向かってくる。 ふと彼の兄に姿がダブって見え。 「何を見ているの?」 タケルが苦笑を再び見せながら向かいの席に座る。 「はい。お待たせ。」 「あ、ありがとう。」 空は瞬きを何度かして、ジュースを受け取る。 なんとなく沈黙が落ちて二人で静かにジュースを飲む。 と、隣の女性達が立ち上がり隣を通る。 そのうちの一人がタケル達を見て微笑む。 「あら。仲良しさんね。えと、兄弟ではないわよね?」 確かに金髪碧眼のタケルと純日本人風の空ではつながりが見えない。 「デートかしら。いいわねー。」 無邪気にいう女性達にタケルも笑い、 「そうなんです。」 爽やかにうなずく。 女性達は華やかに笑い、 「かわいいカップルねー」 といい、お互い楽しみましょうと去って行った。 「カップルだって。」 にこにこ笑うタケルにかわいいはないわよね、と空も苦笑を返す。 それから少し雰囲気が和み、話しを交わしだす。 休憩を適当に切り上げ残りのアトラクションやショーを楽しんでいると、 空がじわじわと赤く染まってきた。 「そろそろ観覧車いきましょう。」 時計を見ながら二人で観覧車に向かう。 カップルに埋もれながら順番を待ち二人は観覧車に乗り込んだ。 ゆっくりあがる観覧車。少しずつ遠くなる地上。 それを見守るべく外を眺める空に、タケルが声をかけた。 「空さん。」 「うん?」 タケルを見た空にタケルは微笑む。 「今日は楽しかったですか。」 「そうね、楽しかったわよ。タケル君。」 微笑み返す空。 良かったです。と言いながら、タケルは寂しそうに表情を少し曇らす。 空は外を眺める為にむけていた体をタケルの方に向ける。 「タケル君‥。」 「今はまだ、選ばれし子供の一人でしかないけど。石田ヤマトの 弟でしかないけど。」 上がっていくタケルの背景が赤く染まる。 真剣になっていく表情に空は息を呑む。 赤く照らされた表情に今まで知っていたタケルの表情はなくて。 「いつか。今度は僕個人としてみて欲しい。」 「タケル君。」 戸惑う空にタケルは笑う。 「突然ごめんなさい。でもずっと好きだったから。憧れじゃなくて。」 「タケル君、私は。」 「気が付いたのはお兄ちゃんと付き合いだしてだったんだ。その時は仕方ないってあきらめかけていたんだけど。」 ああいうことになったから。とタケルは呟き、空は目を閉じる。 「まだあきらめないでいいかなって。好きでいちゃだめかな。僕。」 空は目を開きタケルを見つめかえす。 「そんなことは。」 「もちろんすぐに答えは出さなくていいです。いつか頼れる存在になれるまで。」 二人いてもかわいいカップルとからかいを込めて言われないようになるまでどうか待っていて。 今はただ追い掛ける。少しでも早く追いつく。 「うん。解かった。ありがとうタケル君。」 空は微笑む。とタケルも微笑み返した。 「ありがとう空さん。」 そこでちょうど頂上まできたらしい。 きれいに赤に染まる背景にライトアップを始めた遊園地の景色が映えて。 「わあ。」 空は感嘆の声を上げる。 タケルも目を細めて見ながら。 「きれいですね。」 と笑う。その横顔を見ながら。 「タケル君と一緒に見れて良かった。」 少し変わった印象になったタケルに純粋に空は感謝の気持ちを述べた。 タケルは嬉しそうに笑う。 地上に向けて下がり始めたゴンドラで。 「ここは夜ライトアップをした背景がまたすごくきれいなんだって。」 「ふうん。」 背景を名残おしそうに見る空にタケルは含み笑いをする。 「今度は二人で夜にこれるといいですね。」 振り向いた空にタケルはにっこり笑う。 「もうっ。何よそれ。」 空は赤くなり少しムキになりながらいう。まったくマセガキというか、と ぶつぶつ呟く空にタケルは今度こそ無邪気に声を上げて笑った。 後日。誰かの一声で久しぶりに選ばれし子供で集まった。 言い出しっぺはいつも決まっていなくて、集まる子供達も少ないこともあるが、 時々こうやってみんなで集まって話したり騒いだりするのだ。 公園でお菓子やジュースをつまみながら近況や学校のこと、デジタルワールドのことなどを話す。 海外にいるミミ以外全員そろった珍しい日だった。 ヤマトや、太一ともはなすことになり、空に気を使う二人に。 空はいつもどおりに話せ、二人を観察する余裕すらあることにほっとしていた。 タケルがお菓子を配る為によってくる。 「あ。悪いなタケル」 「サンキュー」 タケルからお菓子を受け取りながら二人は空との会話を打ち切れそうでほっとしている。 そこに爆弾が投下された。 「前はありがとうね。タケル君」 「いえ、とても楽しかったです。」 はっ??といわないばかりにヤマトと太一は、和やかに自分達にしか解からない話しを始める タケルと空を見た。 「また行きましょう。」 「そうね。」 「なにがなんだって。」 聞きたがる二人に空はわざと話しをそらせて笑ってみた。 ゆっくりと周り止まることのない観覧車のように。 気持ちが動き上へ上へと上がっていく。 まだはっきりしたものではないけど。 うん。大丈夫。 空は皆に聞こえないように呟く。 空はどこかわくわくしている自分に気がついてた。 そしてそんな自分に喜びを感じていた。 end 小さな誓いから少し経ったころのつもりです。 ちょっと唐突でしたか。 空の自分の気持ちの決着をつけた時とか、タケルが空を誘おうと思った経過とかも 書いて行きたいものです。 タケルさん今度こそ告白いたしました。 空の答えはもうしばらく後に出る予定。 IandIはタケ空はこんなイメージかなと思ってつけました。 あくまで私のイメージなのですけど。ごめんなさい‥。 IandI/maaya sakamoto/Grapefruit/Victor/1997 電脳に戻る |