勇者は君のそばに



少しまえのこと。


体が強いとはいえずよく体調を崩しては心配をかけていた。
デジタルワールドにいった時も、ただでさえ過酷なあの状態で、
いつも迷惑をかけていたように思う。
でもあの強い瞳を優しくして、手を引っ張ってくれていた。
あの強い手が大好きだった。


甘やかさた環境でなにかあるとすぐに泣いていた自分。
泣くことで自分を主張することが多かった。
ため息をつきながらも、生真面目で責任感の強い彼はいつも
自分にいろいろ気を焼いていた。
あの優しい手が大好きだった。


ヒーローはいつも自分の少し先にいたのだ。
彼の背中をいつも誇らしく眩しくみていた。


「あれ?大輔君は?」
「あれ?そういえば、姿が見えないね。」
デジモンカイザーを退け半崩壊していたデジタルワールドの町の復興作業を手伝う中。
少し離れてところでパートナーデジモンのXブイモンと作業をしていたはずの大輔が
見当たらないことにヒカリが気付く。
デジモンカイザーが襲撃してくる心配はないが、現実世界とは違い未知の部分もある。
全く危険がないわけではないだろう。
ブイモンがそばにいるなら心配もないかも知れないが、せめてどこにいるのか
所在を明らかにしていた方が良いだろう。
作業を京と伊織にしばらく任せ大輔の捜索にかかることになったタケルとヒカリである。


「もう、大輔君たらっ。」
「全くどこに行ったんだろうね。帰ったら京さんに作業たくさん押し付けられちゃうのに。」
口では文句をいいながら表情はしょうがないなぁという感じで怒りはない2人である。
大輔の姿を求めデジタルワールドの地を歩く。


「で、その花はどこにあるんだ?」
「えとね、多分この辺。」
そのころ捜索対象の大輔はブイモンと一緒に、ヒカリ達が作業していた場所に近い
林を歩いていた。
作業中にブイモンがぽつりと話した七色の花びらを持つという花を求めここまで来たわけだ。
そんなロマンチックな花をヒカリちゃんにあげたら喜んでもらえるかも?なんて考えて。
大輔らしい単純な考えである。
「この辺おれ、よく遊んでたからわかる‥あ、あった、あった。」
そんなに深くもない林を抜けるとちょっとした花畑についた。
「ほえ〜」
花より団子という言葉通りであろう大輔さえ感嘆の声を上げた。
それくらい色とりどりの花が当たり一面に広がっていたのだ。
そんな花達の間をすり抜け目当ての花をさがしまわる。
「あ、あったよ!大輔っ。」
ブイモンに呼ばれ、駆け寄る大輔に一輪の花が出迎える。
「は〜。本当に綺麗だなぁ。」
七色に輝く花をみて素直に感想を述べる大輔。その花に手をのばし途中で止めた。
「大輔?」
「いや、折っちゃうの可哀想だなぁって思っちゃって。がんばってきれいに咲いてるのに。」
ブイモンがちょっとビックリして目を見張る。
それに気がつかず、うーんと悩みはじめる大輔。
「まいったなぁ。こういうオチが待ってるなんてなぁ。
でもヒカリちゃんには見せてあげたいしなぁ。」
「そ、そうだね。」
大輔とブイモン揃って花のそばに寝転がり花と見合いをし始めた。


そのころ近くに大輔の姿を認められないため、捜索を空からはじめたヒカリとタケル。
「ほんとうにどこまでいっちゃったのかなぁ。」
「多分、どこかの木の枝ででも登って寝こけてるんじゃあないの?」
「かもね。」
容赦ないパートナーデジモン達の会話を聞きながら苦笑いをする二人。
その眼下に花畑が飛び込んできた。
「わあ綺麗。」
ヒカリが喜びの声をあげる。
「本当に。でもここにはまさか大輔君いないよ、ね。」
そのまさかの大輔の姿を花畑で見つける。
うつ伏せに倒れてる大輔とブイモンに二人は顔を見合わせ青ざめた。
「大輔君!」
「大輔君大丈夫っ?」
駆け寄り肩を揺さぶろうとした二人の耳に寝息が入ってくる。
「えっ。寝て‥。」
「‥るみたいだね。」
呆れと安堵のため息をつき二人は再び顔を見合わせた。
そんな二人に花が不粋なだが無邪気な見物者の知り合いと分かってだろう
微笑んだように感じた。
そんな花と大輔を見くらべ、二人には今までのいきさつが見えた気がしたのだった。
「も〜大輔君ったら。」
「でも大輔君らしい。」
そうして、三たび二人は顔を見合わせくすくすとを笑った。
七色にひかる花を前にすっかり熟睡している大輔をそっと見守る二人。


元気だがどこか頼り無いその手。
でもいざという時は、その真直ぐな性格でどんな困難な状況も打破してきた。
時々かっこいいなんて思えて。
本人にはもちろん内緒だけど。


性格の違いからよく衝突していた。
小さくて不粋な手。拳を受けることも多かった。
自分本意に見えるけど、実は対等に接してくれていることを最近知った。
信頼してほしい。もっと信頼したい。
とても本人を目の前にして言えないけど。


炎と雷。
どちらも対象を瞬く間に灰へと変える恐ろしい力を持つ。
もしかしたら兄達も持て余していたかもしれないその力。
大輔だからこそ正しく気負わず扱えるのだろう。


だからこそ。
彼が疲れた時に癒せるヒカリとなれるように。
闇に捕われても先への展開を示す希望になれるように。


「おーい。」
京の声にふとヒカリとタケルは我に帰る。
「こんなところにいたっ。なかなか帰ってこないから心配しちゃった。」
二人のもとへ元気に駆け寄ってきた。
「大輔さんはまだ見つかりませんか?」
伊織も駆け寄ってくる。
「だ、大輔さん?」
ぐーすか寝ている大輔に呆れる京と伊織。
「あ、京さん‥」
とめようとした時にはもう遅い。
「大輔ちょっとあんたっ。起きなさいよっ。」
容赦なくゆさゆさと体を揺すられ叩き起こされる大輔だった。
「あー?なんだぁ。京。おお?」
目覚めたとたん全員がのぞきこんでいたことにびっくりする大輔。
その前に立ちはだかる京。
「私達が汗水ながして働いているところにあんたはお昼寝?いい度胸ね。」
「え、いや、花を見ていたらなんだか眠くなって。」
「花のせいにするなんて見苦しい!」
そうして、たくさんの作業を言い付けられて途方に暮れる大輔。
「とほほお‥。こんなつもりじゃあ。」
全員で作業していた場所に移動する途中。
落ち込む大輔。タケルとヒカリは顔を見合わせくすくすと笑いあう。
その声が聞こえたのかムスッとして振り返る大輔。
そんな大輔にタケルとヒカリは駆け寄った。
「がんばって大輔君」
「僕達は見守ってるからね〜。」
そう言いながら大輔の左右の腕にそれぞれ自分の腕をからめる。
「ヒカリちゃん(///)って、タケル気持ちわりいなぁ。」


ヒーローは今自分の隣にいる。
彼の横顔を誇らしく見つめている。
これからずっと。

fin




ヒカリ&タケル視点の大輔。
ウチの大輔みんなに愛されてます。はい。
とにかく大輔をカッコよく見せたいと四苦ハ苦してるんですよ。
勇者を見守る天使達みたいな。
ちょっと「ターゲット」にかぶらせてみたり。

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